Andante
いざ!5
さて、学期の初日はどこの学校、学年、学級も早上がりだと思う。
俺のクラスとなった三年B組も例外ではなく、先生がみんな仲良くやれよー、と言い残したのを皮切りに異例の速さでホームルームを終えてしまった。
「氷柳君!」
くるっと仲間君がこちらを振り返った。その顔はワクワクと輝いている。
「サッカーうまいって本当!?」
「へ?」
突然のその質問に戸惑う。
俺自己紹介でそんなナルシストなこと言ったっけ?
「えっと……」
答えに困っていると、トンと肩をたたかれた。慧だ。
「早く帰ろう」
言うと、慧は有無をいわさずに俺の手を引き歩き始める。
何となく覚えのあるパターンだ。
「あ、ちょっ……!ごめんまたね」
後ろを振り返れば、そこには口を半開きにきょとんとこっちを眺める仲間君がいた。
グイグイと引っ張られるままに歩く中、視界の端に誰か見知った人を捉らえた気がして俺はそこを振り返った。
教室を出る波の中、時雨の従兄弟である相葉優希君がその流れに乗って廊下に出るところだった。
そういえば相葉君も同じクラスだって言ってたっけ。
偶然にも向こうも俺に気づき、俺は重なった視線に別れの挨拶をしようと手を振った。
「錬、前向けぶつかるぞ」
慧の声と同時に人の波に飲まれ、俺はあっという間に相葉君を見失う。
「錬?どうかしたか?」
「ううん、なんでもない」
伸ばした腕の先を見つめる俺に慧がどうした、と足を止める。
慌てて前を向く俺に慧は首を傾げた。
「行きたいとこでもあったか?」
「ないない。何があるかも把握してないのに」
「そうだったな」
慧がクスリと笑いじゃあ行くか、と再び歩き出す。
見失う前に見たのは、彼の驚いた顔と小さく振り替えされた手。
かわいかったなあなんて思い返しながら俺は上機嫌に廊下を歩く。
友達、なれるといいな。
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