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Andante
いざ!2


ピピピピピ……

慧の部屋から聞こえてくる電子音に、俺はノックなしに慧の部屋に飛び込んだ。


「慧〜!7時だぞ〜っ!」

「っ……れ、れん?
なんだ、今日は先に起きたのか……」


ビクッと目を擦る慧に笑いかける。


「慧が昨日8時に寝かしつけてくれたおかげで6時過ぎには起きたよ!」


おかげで暇だったぜ、なんて言った俺を慧が撫でて笑う。


「毎日続くと良いな」


そうだね、どう考えても無理だけどね。
思いながら俺はダイニングへ駆けた。


「今日は卵かけご飯〜」


気分良くご飯をよそう。
なるようにしかならないと、クラスメイトと対面する直前になってようやく吹っ切れることができた。
やっぱり寝るのって大事だな!


「慧、醤油は何かけ?」

「あ、俺はトーストを食べるから……」

「そう言うと思って!既にトーストを開始しておりまーすっ」


これは俺のでーす、とご飯に醤油をかけていると、チーン!とタイミングよくトースターが鳴る。
トーストを机に運びスマートにバターを塗ってやれば、とうとう慧が吹き出した。


「なんだよそのテンション。昨日とは見違えたな」

「人間は寝ながら成長するものなんだよ慧君」


いすに座りもぐもぐと米を咀嚼する。
テンションの高い今なら自己紹介なんて怖くない!


ピーンポーン


2人で食卓を囲んでいるところに訪問を告げるチャイムが鳴る。


「誰だろう?」

「いや、1人しかいないだろ……」


……ということは時雨かな?

慧がどうかしたのだろうかとドアへ向かう。
リビングに連れてきたのはやはり時雨だった。


「おはよー時雨、どうしたの?」

「迎えにきた。
お前が8時半に職務室に行くように言われたことなんて覚えてるわけがないからな」

「何それ、初耳だけど」


慧が俺を振り返る。
俺は知らん知らんと首を振った。
俺だって今初めて聞いた。
……ひょっとしたら部活前に言われてすっぽ抜けたのかもしれないけど。

素知らぬ顔の俺に慧がまったく……とため息をついた。


「あ、会長。
朝飯はもう食べたか?」

「見くびるな。
毎日走りこむ前にバナナを食べている」


ここぞとばかりに朝ご飯の重要性について説きだした時雨。
……たまにうんちくを並べ立ててくるのがこいつの面倒な所だ。


「てか時雨、バナナだけで足りるのか?」


果物だけ、ましてやバナナなんていくら食べても足りない気がする。……いや、そもそも一食分を補うほどの量のバナナなんて食べたくないが。


「朝はバナナ一本で事足りる」


一本!?


「足りてねーよ!」


どこの朝バナナダイエッターだ!と叫べば、慧がカタっと席を立った。


「何か用意する。パンと米どっちがいいんだ?」

「どっちもいらん。朝には重い」


このわがまま野郎はさっき自分で朝はしっかり食べろだの並べ立てていたのを忘れたのだろうか。

慧を見れば、既に容器にご飯と卵を入れかき混ぜているところだ。
有無を言わさず食べさせる気らしい。


「ほら、会長」


デンと置かれた丼に時雨が顔を背ける。


「食べ物を残すなよ」

「よそったのは藤堂だろう」


横から声をかければ時雨は食べる気なんてないと眉をしかめて表明している。
ふぅとため息をつくと、慧が会長、と呼び掛けた。


「見ろよ。錬だってしっかり食べてるんだぞ?」


その言葉に時雨がピクリと反応した。


「錬が食べてるのに会長は重いからって食べないのか?」


慧が追い打ちをかければ、時雨は嫌々箸を手に取って卵かけご飯を口に運んだ。



「……塩が足らないぞ」

「錬、醤油持ってきてやって」

「しかたないな……」


苦笑いしながら言う慧に、俺は渋々キッチンに向かう。
ダシに使われたりこき使われたり、色々と複雑な気分だった。


「ほら時雨、たっぷりかけろよこのウスターソースを」

「……練?俺はソイソースを持ってきてやれと言ったんだけど?」


慧が有無をいわさぬ笑顔で俺を再びキッチンへ追い立てる。
ご飯時の慧は心なしかおっかないな……。



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あきゅろす。
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