Andante
ざわざわ
夏休みが始まってもう3週間が経つ。
一時期夏バテで食堂まで歩くのも無理だった俺のために自炊をした慧は、こっちの方が静かでいいなとそれを習慣づけ始めていた。
「今日はなにが食べたい?」
晩飯を尋ねてくる慧に思わず眉が下がる。
慧の飯はおいしいんだけど、俺のせいで慧の仕事を増やしてる気がするのが少し気がかりだった。
「今日は食堂行かない?」
かと言って俺が作れる料理なんてたかが知れているからそう提案すると、慧は険しく顔を歪めた。
「なんで?」
何か不満があるのかと慧がジト目で訴えてくる。
そういうわけじゃと俺は慌てて言葉を足した。
「だって毎日作るんじゃ慧が大変だろ!?
俺もう全然元気出し心配しなくても大丈夫だからさ!」
そう答えても慧はまだ不服そうだったが、ふぅとため息をついて再び口を開く。
「絶対うるさいぞ」
「もう慣れたよ」
人と視線の多さにはビビるが、注文しただけで料理が運ばれてくる快適さは魅力的だ。
慧もそう思ったようで、渋ってはいたが最終的には頷いた。
「せめて人の少ないうちに行こう。
ちょっと早いけどいいだろ?」
問題ないと頷いて、俺は自分の格好を見直す。
「このまま行ったら浮く?」
濃紺のハーフパンツにプリントの入った白いシャツ。
部屋着丸出しな簡単な格好だ。
「大丈夫だろ。普通にジャージで来る奴もいるしな」
かくゆう慧は黒いタンクトップにプレートのネックレス、チャコールグレーのズボンだ。
俺の逆さま髑髏のシャツと違って大人っぽいその服装に少し危機感を抱く。
俺もアクセサリーの一つや二つ買った方がいいかな……。
「ほら、カードキー持って来い」
慧と自分を比べていると、慧がそう促した。
行くんだろ?と首を傾けて見せた慧に不覚にもキュンとしたのは内緒の話。
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