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Andante
一日目4

「ふ、藤咲君!」


後ろから慌てて声をかけると、藤咲君はびっくりして肩を跳ね上げた。


「ひょ、氷柳君と、藤堂君……?」


反動で口にクリームをたっぷり付けた状態で、藤咲君が振り向いて驚いたような声をあげた。


「あ、あのさ、ちょっと相談があるんだけど。
一緒に周りながらでいいから話せないかな」

「え、えっと……あの……」

「……歩きながらじゃなくてゆっくり話した方がいいんじゃないか?
多目的室に行こう」


藤咲君の様子を見かねて慧が提案する。
藤咲君は少しホッとした様子で頷いた。


「ごめん、自由時間なのに」

「ううん……あ、でも……クレープ……」


そういえばあの教室は飲食禁止だと言われていたっけ。

待ってるからゆっくり食べてと言う前に、藤咲君は口にクレープを一気に詰め込んだ。

もごもごと頬にまでクレープを押し込んだ藤咲君に、俺と慧は揃って笑った。
藤咲君は恥ずかしそうに顔を伏せた。


「……指名して、貰えなかった……?」

「うん。全くではないけど、ダントツで少なかった」


俺の言葉に、藤咲君が首をひねる。


「なんか、周りはみんな足が気になるみたいで……。もうちょっと隠せればなんとかなると思うんだけど」

「足……?」


しばらくぼんやりとしていた藤咲君だけど、やがて納得したように顔をあげた。


「あの、多分」

「間違いなく毛が気になったんですよ。
やはり剃りましょう」

「っうわあああーーッ!!!」


背後からそっと太ももを撫でられ、人生で一番の絶叫が出た。


「ハラショー」

「意味が分からねえよ変態!」


うっとりと微笑む委員長に慧が怒鳴りつける。
ううう……ガンシューティングのドッキリより怖いとは……この委員長は本当に恐ろしいな……


「それで、錬君がお呼ばれしない理由でしたよね?
毛じゃないんですか藤咲君?」

「え……どうだろ……。でも、指名したら、座るから……場所によっては、見えないよね、太もも……」


……太もも?



「なるほど、そういうことでしたか。確かに歩き回っていた方がチラリズムも上がりますしね」


……チラリズム?


「困りましたね。近くより遠くの方がおいしいんじゃ指名は来ませんね」


おいしいって。
え?まじでなに言っているの?
わけがわからないよ……。


「純粋に指名してくれと頼むしかないんじゃないですか?
もっと丁寧に売り込んできてください。
……なぜそんな死にたそうな顔をしてるんですか?かわいい人ですね」

「わけがわからないよっ!」

「あっ錬が逃げた……」



ポツリと実況した慧を置いて多目的室を出た。
わけがわからないよ……わけがわからないよ……!




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あきゅろす。
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