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Andante
再会


三日ぶりに会う慧は思ったよりも元気そうで少し安心した。
てっきりもっと心配してると思ってた、なんてね。

いつもと変わらない慧に思わずテンションが上がっちゃって、お土産話が止まらない。

けれどもう少し歩けば寮に着いてしまう。

そうしたらまず時雨とは離れるだろう。
何だか名残惜しくて、俺はなあ、と2人を仰ぎ見た。


「俺もうめっちゃ腹減ってるんだけど、このまま食堂入っちゃわないか?」

「行くなら二人で行ってこい」


腹をさすりながら訴える俺をすっぱり切り捨てたのはその時雨だった。

まあ当然かもしれない。
生徒の代表を務める生徒会長がこんなボロボロで汚い格好で食堂に入ったとなったら面目丸つぶれだろう。
でも諦めきれなくて何とか説得を試みようとする俺を、慧が錬、と呼び止めた。


「あとちょっとなんだから部屋で食べればいいだろ?
それなら会長もくるだろ?」


きょとんとする俺を横目に慧がそう尋ねる。

時雨は無言で慧を見つめた。
嫌って言わないって事はOKてことだな!
時雨の扱いを心得た俺は何も言わない時雨をしっかりと確保して部屋へ引きずった。

時雨はなんともいえない顔をしていたけど、やがてため息をつくとパッと俺の手を払い一人で歩き始めた。


「時雨様、おひさしぶりです」


寮へと向かう俺たちに、茶髪のふんわりとした雰囲気の少年が声をかけてきた。


「ああ、久しぶりだね」


俺は思わず時雨を凝視した。
えっ今ほんとにこいつが返事した?
目を疑う俺を余所に、少年は何事もないように話を進める。


「選抜合宿終わったんですね。お疲れさまでした」

「ありがとう」


にこりと笑う少年に、時雨は先ほどまでの理不尽さを微塵も感じさせない人の良い笑みを浮かべて応えた。


「さ、慧……?」

「皆まで言うな……わかってるから……」


慧が声をひそめてそう言うので、俺は思い切り口を閉じた。
混乱して余計なことを言ってしまいそうだったから今は何も聞かないことにした。

二人のやり取りを一歩引いて眺めると見事に優しい会長そのもので、器用なやつだなと思わず舌を巻く。


「ところでそっちの彼は……?」


ふと少年が俺を見てそう尋ねた。
先ほどの穏やかな笑みは消え、どこか警戒するような不審そうな顔である。
好奇心旺盛に二人を見ていた俺はその視線を受け思わずたじろいだ。
さすがに不躾だったかな……。


「彼は氷柳錬君。さっき一緒に選抜から帰ってきたんだ」


えっと、と言葉に詰まる俺の代わりに時雨が説明してくれた。


「そう……」

「わからないこともあるだろうし、仲良くしてあげて」


時雨の言葉に少年はスッと手を差し出した。

少しは警戒も解けたらしく、その目には穏やかさが戻っていた。
俺もホッとして手を差し出す。


「僕は相葉勇希っていうんだ。よろしくね」

「俺は氷柳錬。よろしく!」


控えめに微笑んだ相葉君に俺も笑って返す。

ゆっくり手を離すと、彼はなぜか慧の方をちらりと見て笑った。
慧はそれを受け思い切り顔を顰めている。

一体2人はどういう関係なんだろう……。


「なあ、時雨も相葉だろ?ひょっとして兄弟?」

「俺と勇希は従兄弟なんだ」

「へー!」


時雨と相葉君は親戚なのか。
妥当な様な意外な様な、ちょっと妙な感覚だ。
似ていると言えば似ているような気もするけれど、相葉君が様付けしてる時点で兄弟の距離感ではない。


「ねえ時雨様、これから何か予定はありますか?」


少しおどおどした感じの相葉が君、それでも目をキラキラさせながら時雨を誘う。


「悪いけど、これから二人の部屋に行くんだ」



俺はまた今度、と笑う時雨を何言ってんだと小突いた。


「一緒に来ればいいじゃん!どうせ準備はこれからなんだし、慧もいいだろ?」


相葉君はちらりと俺に視線を向けたが、すぐにふわりと笑って口を開いた。


「ううん、今日は遠慮しておくね……」


やんわりと笑って断られれば、俺はあ、うん、としか言えなかった。
ひょっとして余計なことを言っただろうか。

ちらりと慧を窺うとジト目で首を振られた。



「じゃあ、また機会があったら」

「ああ、またね」


相葉君がそう挨拶すると、時雨も完璧な笑顔で答えた。
相葉君の背中を見送ると、時雨は何も言わずにエレベーターまで歩き出した。
その後ろを慧と一緒に追い掛ける。


「なあ、今の気持ち悪い態度はなに?」


躊躇なく問う俺を慧が間髪入れずに小突く。

何だよ、と抗議すれば慧は口パクで何やら怒っていた。
地雷だったらどうするつもりだ!的なことを怒鳴っているのだと思う。


「気に食わないやつが相手だと勝手にああなる」


慧の心配をよそに、時雨はしれっとそう返した。
勝手にって……。

イマイチ腑に落ちない俺だが、時雨が慧に向かって思い出したように口を開いたので言葉を飲み込んだ。


「そういえば藤堂、お前勇輝と同じクラスじゃなかったか?」

「まじ?じゃあ俺とも一緒じゃん」

「えっと……まあそうだな……」


どんな子?と尋ねる俺に、慧は少し言葉を濁らせた。


「……関わりがないからよくわからないな」


「えっ何今の間。さっきのアイコンタクトといい、まさかただならぬ関係……?」

「身内の俺がいるとできない話か?」

「そういうんじゃない!会長も真顔で辞めてくれ!」


わざとらしく頬に手を当てて茶化す俺に悪のりしてくる時雨。
慧はカッと顔を赤らめて抗議の声を上げた。


ムキになると余計怪しいぞ、なんて追撃したかったけど、俺の腹の虫がグ〜と空腹を訴えて来るものだからチャンスとばかりに慧が話を逸らしてしまった。


「そうだよな、腹減ったよな!
お前ら何が食べたいんだ?
今冷蔵庫キャベツしかないから買い足さなきゃな!」

「からあげっ!」


空腹には勝てず勢いよく食いつく俺に慧はアハハと声を上げた。


「会長は?」

「ハンバーグドリア」

「……めんどくさい却下」


時雨のリクエストを慧がばっさり棄却する。
時雨はチッと舌打ちするとじゃあピザだ、と妥協した。
慧はそれを受けて困ったように眉を下げる。


「会長、俺ら一般寮だからデリバリー使えないんだけど……」

「俺がいるんだから問題ない」


「うわあ……」


2人のやりとりは詳しくはわからなかったけど、時雨がまた王様発言かましたことは何となく理解できた。
慧はため息をついて片手で顔を覆っている。



「何か文句があるか?」

「……いや、なにも」


慧は諦めたようにそう返した。
ふん、と鼻をならす時雨に、俺と慧は顔を見合わせて苦笑した。



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