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Andante
エゴイスト



9回目の夏休み前日。
俺が転校することをクラスのみんなに伝えた日。
学校が終わってすぐ、俺はあいつの家に行った。


古澤圭吾。
俺の幼なじみで、友達で、親友で、恋人で。

俺の世界そのもの。


圭吾は自室に入った途端に俺を抱きしめてきた。



「言うの、おせぇだろ」


耳にかかる低い不機嫌な声。
心なしか少しだけ震えている気がする。


「……言いたくなかったんだよ」

「どうして」

「なんとなく?」

「ざけんな」


圭吾の腕にぐっと力がこもった。


「ざけんなよ……!」




しばらく無言が続いた。

その間も圭吾は俺を抱いていて、俺は圭吾の背中に手を回し洋服をつかんでいた。



「……錬」


何ともいえない沈黙を先に破ったのは圭吾だった。

俺の体をゆっくりと離し、苦しそうな顔で、苦しそうな声で言う。


「行くなよ、俺から離れんなっ……」


いつもの圭吾とは違う弱々しい声が、俺に驚きと罪悪感を植え付ける。


「親の事情なんだろ?
だったらおまえは俺んちに住めばいい」


まっすぐに俺を見つめる圭吾に、俺は思わず視線を逸らす。


「……無理だよ」


一言だけ言うと、俺は口を閉じた。
圭吾は俯いたきりなにも言わない。
きっと、それが無理だと自分でもわかっていたんだろう。




「なぁ、圭吾」


ゆっくりと口を開く俺に、圭吾はそっと顔を上げる。


「……なんだ?」


「俺たち、別れようよ」


泣きそうなお前に、俺は最後通告を。





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あきゅろす。
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