[通常モード] [URL送信]
新しい世界に、こんにちは

---翼君、僕からささやかな仕返しさ。・・平行世界への旅、プレゼントしてあげるよ


(この声・・・白蘭?)


----片道切符だ けどネ  ハハハ ハハハハハハハ・・・

(何のこと言ってるのかわからない・・笑い方、相変わらず嫌みだなあ・・)


むせかえる、花の香り。
おかしい。


(皆と一緒に私は・・過去へ帰るために、装置に・・はず なの に)



-----・・君の幸せ なん 僕は・・・・祈って  あげ ない



霞む意識の中で 白銀色の背中だけが 遠ざかる




* * * * * *



闇の中、目を開いた。
冷たい外気。遠い夜空には星が瞬く。
空気は嗅いだことのない匂いが、した。

堅い石畳の道の片隅で、そろそろと横になっていた状態から半身を起こす。
狭い、路地。「日本」ではないことだけは、確かだ。

(ヨーロッパの古い街並、かなあ・・かなり汚れて狭い感じだけど)


原因は白蘭の能力、に違いない。


見たところ、怪我は無い。
ただ私は丸腰だ。
いつもの白ガクランは着てるけど、持ち物といえば匣が入ったブレスと、
正一君から返してもらった母さんの形見だけ。

無一文かつ情報は一切なし。



ため息をこれでもかという程、ついた後に考えた。

(みんな、心配してるかもしれないけど・・・とにかく、何とか生き延びないと)


砂漠の真ん中とか、猛獣のいる森に放り出されなかっただけましかもしれない。
でも、見るからに知らない国っぽいし。
勉強した英仏伊語以外の言語を使う国だったら、また一から覚えないと駄目なのか、そうなのか。

あ、早くもくじけそうだ。


(もし日本が存在してる世界だったら、頑張ってそこまで行くしかないし)


体育座りのまま、混乱したまま考えこんでたせいだろう。
路地から小さな人影が近づいてきていた事に、至近距離まで気づかなかった。



「お兄さん。・・・道に迷ったの?」



はっとして顔を上げたら、小さな子供と目と目があった。
暗い色のさらさらした短い髪、同じ色の瞳。
笑いもせずに、その声は単調だったけれど、確かに理解できる言葉だったことに、ものすごく感動した。


「う・・うん!そう、なんだ。この町は全然わからなくて、困ったなあって思ってたんだ」


うっわ、なんだろう、テンション上がる。

地元の子だろうな。7〜8才くらい?
立ち上がってみると、私より頭一つ以上低かった。でも西洋人っぽい彫りの深い顔立ちに、やっぱり
外国に着たんだなと納得した。


心細い時に、声かけられて安心しちゃうなんてほんとに単純だ、私。
嬉しくて、思わず「お兄さんじゃなくて、お姉さんだよ」なんて訂正を入れることすら、思いつかなかった。

白のガクランなんて、西洋の人には軍服風に見えるかもしれないし、まして子供だったら女と気づかなくて当然だよね。


「・・ここは危ないから、一緒に、来て」

「っわ、ひっぱらないで!ちょっと待って」


この子、みかけによらず、力つよいっ!
掴まれた手首は痛いほどで、勢いあまってつんのめる。
でも特に、抵抗する理由も無いし、一人は心細いし、一生懸命にひっぱる子に引かれるままに
見知らぬ道を連れられていく。

子供はやっぱり地元ッ子なんだろう、灯りもない入り組んだ石段を迷いもせずに降りていく。
空は段々小さくなっていって、周りは段々迷路のような洞窟めいた暗い部屋に、つながっていって。


・・・あ、れ?




* * * * * * *




簡潔に、私がいかに阿呆だったかを白状します。

あの子供が私をひぱっって連れ込んだ先は、人買い宿でした。(笑)


いや笑ってる場合じゃないんだけど、世の中は怖いなあというかまさか年端もいかない子供が
初対面の人間に可愛く声かけて、人身売買の片棒担ぐ世界っていうのは、
やはり平和ぼけした日本人にとって現実を直視するのに、しばし時間を要しました・・というか。


現在、ぐるぐるに縄で縛られて、周りは怖いお兄さんおじさん達5人に囲まれております。
なんだろう・・この既視感。
昔、小学1年の頃に初めて縛られて以来、さほど縛られ経験値は高くない私が、異世界(らしい)場所にやってきて早々これとは。

(先が思いやられる・・・)


「・・こりゃあ掘り出しものだ。この髪と肌、顔だちといい・・東洋人だろう?それに見ろ、この上等な服!」


うん、日本は東洋の一部だから正解です。アイアム東洋人。
でも髪をわし掴んだり、胸ぐら掴まないでください、苦しいです。

ここはやっぱり昔のヨーロッパ風の世界な感じなのかな。
で、東洋人は高く売れるのか。数が少なくて珍しいのか、価値が何らか高いのかどっちだろう?

私の着てるガクランは、まあ並盛町一のテーラーに雲雀が特注した一品物だから確かに上等です。
お目が高いですねお兄さん。



「ツラも良いじゃねえか。まだ育ちきってない年頃もいいし、厭らしい貴族や商家の好事家の旦那方にひっぱりだこよ」


あーやっぱり人買いってそのコースですか。
ちょ、息がくさいのであまり近寄らないで欲しいんですが。

女だって思ってない風だから、男と男のかけ算が好きな一部のお金持ちが客なんだ・・
どうしよう、女ってばれた方がいいのか、いやばれたら女好きに売られるだけだし。


密室の中で薄暗いランプの灯りが照らす向こうでは、さっきの子供が私を売った駄賃だろうか、
男の一人から金の袋らしいものをもらって扉から出ていこうとしていた。


ちらとこちらを見たその子と、目が合った。
相変わらず、暗い色の瞳だなあ。

ふっと何となく笑んだら、びっくりしたように目を見開いたかと思ったら背をむけて、瞬く間に姿を消していた。



よしよし。

これで部屋の中は、品の無い笑いとくだらない話をしてる男達だけになった。


縄で巻かれた腕をごそごそ動かす。
ガクランは襟が高くて袖長いからね、首に下げた母さんの形見も、ブレスレットも男達は気づかないまま縛ってくれたので、無事でした。
縄抜けできない事はないけど、肩外すのは結構痛いから、楽なほうを選ぶよ。


「空海(くうかい)、wake up! (起きろ!)」

聞こえるか聞こえないかの音で小さく呼びかければ、パリンと匣(はこ)が開く音が、した。




* * * * * *



その後、
外にでて暗い階段を、子供に連れて来られた時と逆に辿って登っていった。

段々と、月明かりか星の明かりだろうか、ほの明るくなってくる視界に何かが写りこんだ。

小さな影法師が一つ。
それが「誰」かわかって、思わず疑問が口をついてでた。


「・・・あれ。君、帰ったんじゃなかったっけ?」

そこのいたのは、さっき、私を人買いに売った子、だった。



なんか、睨まれてるんだけど、どうしてだろう。
それに子供の頃から、そんな眉間に皺よせてるとクセになるからやめたほうがいいと思う。


険悪な感じだから気になったけど、狭い階段だから、その子のすぐ脇を歩いて通った。
ちなみに今の私はてぶらじゃない。

部屋にいた人買いの人は全部のしたので、金品やまだ使えそうな服は迷惑料として頂いて適当なずた袋にいれてかついでます。
いわばクエスト勝利における戦利品?


すれ違いざま、その子が振り返る気配があって。



「てめえ、何モンだ」



うっわ、なんという見た目と口調のアンバランス。
ドスのきいた低い声といい、口が悪いなんてもんじゃない。

やっぱり先刻の、子供っぽくもあどけない「お兄さん」とか「道に迷ったの」とかは、
騙すためのリップサービスだったのか。

荒んでるなあ。
でも・・・


子供の手には、私をさっき売ったお金が握られてた。
それも彼が生きていくための糧。
どんな形でも、どんな手段でも、生きていこうという意志の現れ。



私は改めて、この世界を、この子を含めて、見つめなおした。
この世界に落とされた直後にはまだ実感が朧だったけれど、この短い間に、ここの人達と触れあって、やっと目が覚めた。


(生きのびる)

それだけは、私がどんな場所にいても、変わらない目的なんだ。




「風見翼。私の名前は、ツバサだよ。・・・今日から、ここで生きていくんだ。よろしくね」


子供が、あっけにとられたような顔をしたのが面白くて可愛くて、
場違いにもまた笑顔になってしまった。





[次へ#]

1/3ページ

[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!