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王都シーナにて、はじめまして

同期って、厄介だと思う。

なんせ3年間、訓練兵団の同じ釜の飯(パン)を食べた仲、2段ベットの上下で寝た仲でかつ隙をみては布団の中まで進入されてきた仲(この奇行はハンジ限定)、
弱みというほどじゃなくても頼みごとは断りにくいのだ、実際のところ。

はあ、とため息をついたところで、ハンジに紹介された調査兵団分隊長殿に頭を下げた。


「駐屯兵団所属の、ツバサです。地下街出身なので姓を名乗らないのはご容赦願います。どうぞよろしく」


王都シーナにて。
初対面の分隊長殿は、金髪碧眼の大層な男前でした。
眼福です。
30前くらいかな?背が高い。
見上げると肩が凝りそう。・・といっても私はフード被って俯き加減にしてるから、大丈夫だけど。


「エルヴィン・スミスだ。気にしないよ。忙しいだろうに、今日は無理をして付き合ってくれてありがとう。こちらこそよろしく」


落ち着いたいい声だなあ。
立場はずっと上の人なのに丁寧で礼儀正しく好印象。

思わず、ちょっと顔をあげて視線を合わせた。


ちょうど握手の手をさしだされていたので、そっとこちらも手をだして仲良く握手。
おお、堅くて本当に戦う人の手のひらだ。


「私のような者が、お力になれるかわかりませんが頑張ります。
スミスさん」


笑顔で挨拶したら、なんかスミス氏が固まった。

手を握りあったまま固まったので傍目から見ると「何だあの二人」って言われそうなんだけど、まあここが人気のない路地近くで良かった。


「・・っ、し、失礼!・・女性、だったとは聞いていなかったので驚いてしまったんだ」


すまない、と微かに顔を赤くしてうろたえる様子が、年より随分若く見えて思わず、声をあげて笑ってしまう。

ああ、しまった。
更にスミス氏が耳まで赤くしてしまった。


「身長は低いのに、初対面では男と思われることがよくあるんですよ、スミスさん。
ハンジも面白がってわざと言わなかったんでしょうね。お気になさらず」


さあ、行きましょうと促すと、スミス氏も落ち着いたらしい。
先導するように一歩前を歩く彼のあとをついてゆく。


「・・エルヴィンと呼んでくれて構わない」

「では、『エルヴィンさん』で」

「ああ。『スミスさん』より、ずっといいな」


正直いって、久々に行く都の地下街は、ちょっと緊張するのだけれど。

同行するエルヴィンさんが思いのほか良い人物だったので、一安心だと胸をなでおろした。



* * * * *



初めて聴いたその人の声は、想像していたものより高かった。
質素な無地のマントに包まれた身体は小さめで細い。

最初は人違いかと思ったが、名乗られてその懸念は消えた。


見た目で強さは測れない。

どこにでもいる優男に見える彼が、どれほどの手練れなのか。
かえって見るのが楽しみだと思いながら握った、その人の手のひらの小ささ、柔らかさに言葉を失った。


女性相手に、握手を男から求めるのは非礼だというのは常識だ。

男性と勘違いし、しかも初対面で失態をしでかすなど、二重に申し訳なく柄にもなくうろたえた。

私の謝罪に、思わずといった様子でこぼれた「彼女」の笑顔にまた釘付けになった。


なんて・・・瞳だ。
東洋人かと思われる繊細な顔立ちに嵌った、二つの黒い宝石のような瞳が、私を見ている。

そう思っただけで、身体の熱が上がっていく。


無理やり目から視線をそらし、ツバサの前に一歩踏み出した。

もう動揺は顔にはでていないと思うが、そんな事を気にする事自体が珍しく、私らしくない。
・・・本当に、らしくない。


姓ではなく、名前を呼んでくれと言うと、快くツバサは応えてくれた。
些細な事なのに、妙に嬉しい。


彼女の性別を黙っていたハンジには業腹だが、この出会いのきっかけになったのだから、
やはり感謝すべきなのだろう。


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