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後日談


「紹介しよう。彼は、私がシーナから勧誘してきたリヴァイだ。
能力は優れているが、兵士の経験は無いため調査兵団内でまず、基本的な教養と訓練を行う予定になっている。
ここにいる皆には、色々と世話になると思うがよろしく頼む」


真新しいジャケットを羽織った見慣れない男を前に、エルヴィンはいつものように穏やかな笑みを浮かべていた。


成人男性にしては、小柄な痩躯。
端正だが険のある目元。年齢は・・・20代だろうがはっきりとわからない。

神経質そうな、貴族の坊ちゃんに見えなくもない風貌に、
兵士の厳つさは似合うように見えなかった。

けれどその刺すような視線と覇気が、彼が只者ではないことを言葉など必要なく、私達に知らしめた。
都の地下街で有名なゴロツキだったというのは、本当の事なのだろう。


(・・・エルヴィンは、よくもこんな獣みたいな男を、説得できたもんだね)


調査兵団内でも随一の指導力をもつ、彼の実力に感服する思いだった。


そして、先日言っていた、ツバサを紹介した例の仕事は無事成功したのだと胸をなで下ろす。

私は、同期のツバサの強さには絶対の信頼があったけど、同じように絶対の安全なんかこの世界には無い。
エルヴィンから正式にこうして話があるまでは、内心どんな案配だったのか心配していたのだ。



「リヴァイ。
 こちらは、ミケ・ザカリアスと、ハンジ・ゾエだ。
 彼らは、調査兵団を支える若き柱なんだよ。
 君は主に彼らから、調査兵団のことを色々と学んでいくことになる」


リヴァイの視線が、ミケを通り過ぎて何故か、私の顔へぴたりと止まった。


(ほんとに、目つき悪い男だねえ。・・・アレ?)


ぶわ。
顔中、冷や汗がどっと出てくる。あ、メガネ曇った。

アレ?


私の隣で、鼻を鳴らしながらミケが低く唸る。

「・・・エルヴィン。聞いていいか。
どうして初対面の人間から、殺気を浴びなきゃならんのか俺にはわからん」



あ、そっか、そ・・・殺気かコレ。
いや納得してる場合じゃない。ちょっとハンパないでしょ、初めてだよ、こんなの!



相変わらず物凄い目で私を睨む男の背中ごしに、エルヴィンが苦笑してるのが見える。

「リヴァイ。これから世話になる同僚に失礼だ。控えなさい」

「いやいや、エルヴィン、これ笑うとこじゃないから。貴方が連れてきた猛獣だよね、この男!」



思わず指をさして抗議したのは仕方ない。
飼い主、もとい勧誘してきた責任は、分隊長たるエルヴィンがとるべきだ。これは間違いない。

私は巨人と奇行種は大好物だけど、人間の奇行種はものによるんだよ!
断じて、ゲテモノ喰いじゃあない。



猛獣、もといリヴァイという男は。
私の抗議を歯牙にもかけず、片方の口元を吊り上げ、歯をむきだして凶暴に嗤った。



「エルヴィン。俺は、こいつを殺る私的な理由がある。
 俺の教師役はこっちのでかい男一人で、十分だろ」



どこから出したのか、一瞬後にはその両手にはぎらつくナイフが握られていて、目を剥いた。

(こりゃ絶対、ヤバイ奴だ!)


彼の言葉は虚仮威しなどではないと本能で感じた。
背筋が泡立ち総毛立って身構える。だけどブレードは今、身につけてない。丸腰が悔やまれた。


そしてリヴァイがこちらに飛びかかろうとした瞬間



「リヴァイ。女性に失礼な態度をとるものじゃないよ。彼女は君の敵じゃない」



にこやかな表情を崩さないエルヴィン。
私をかばおうと一歩踏み出してたミケ。

そして身構えたまま、たたらを踏んだ私。


エルヴィンの言葉に停止した猛獣はいっそう眉根に深い皺をよせた。

「冗談はよせ、エルヴィン。こいつは害虫だ。
 俺の女にストーカーの如くつきまとい、あげくに求婚しやがったんだ、駆除するしかねえだろ」



祝。
人生で初めて、虫認定されました。

・・・ハンジ虫か。
ヤダそれ、ちょっといい。

・・・いやいやいやいやツボってる場合じゃない。




(へっ?!求婚って誰だよそれ!)

本気でわからず、頭の中がくるくるだ。
15で訓練兵団を卒業してから調査兵団に入った私に、都の地下街に住んでる知り合いはいるはずもない。


そもそも、私は一途なのだ。
プロポーズした人間なんて、今までの人生でたった一人しかいやしない。



「私が恋してるのは、ツバサだけだから!あんたの女なんて知らないよ!」



びしっと指さして宣言すれば、猛獣の殺気は更に膨れあがった。


「・・・虎の尾を踏んで死に急ぐな」
って、何人ごとみたいに呆れ顔で呟いてんの、エルヴィン。

あんたが連れてきた猛獣でしょ。
首輪つけて、鎖に繋いでおくのが筋だろーが!


地団駄踏んでると、どうどうとミケに宥められた。
コラ、さりげなく私まで動物扱いすんな。



「・・・ハンジ、落ち着け。そもそも誰だ、ツバサって」

「私の同期だよ!同室で3年間、愛を育んできた切っても切れない仲さ!」


「・・・女同士か。お前、それは見境なさすぎるぞ」

「えっ、それが何の障害だって?
ハハハ、愛があれば性別なんて、壁より簡単にまたぐからね!」



私の隣で大空を舞う、ツバサの姿を思い出す。

手触りのいい黒髪。
ふくよかな胸は、とっても柔らかくて。
何より包み込むように優しい瞳はどんな星よりも心を虜にする。


「フッフッフ----っ」

笑いがこみあげて、あっ、思わず涎が。



静まった室内の空気に、見回すと、リヴァイがいつのまにか相当距離をあけていた。
三白眼が、見開いたせいで白目率がやけに高い。


おや。
殺されると思ったのに、どん引かれてるわ私。



「・・・気持ちわりい」



殺気は引っ込んだけようだけど、その時リヴァイの中で
私が「害虫」→「汚物」に格上げ(?)されたことを知ったのは、彼が人類最強と呼ばれるようになった後だった。




* * * * * *



「リヴァイ。・・彼女のことは、そっとしておいてやってくれ」

「・・・うむ。(なま)温かい目で見ておくのが一番だと俺も思う」

「お前ら、一応仲間のはずだろうが。それでいいのか」



あれ、なにげにこの中でリヴァイが、一番常識人で、私に優しいんじゃないだろうか。

世界は、理不尽に満ちている。
























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あきゅろす。
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