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2人+1匹=微妙な関係

狭いながらもこの「王都・シーナ」と呼ばれる都の地下街の一角で、
安住の場所を見つけました。

と思った矢先に、事件です!



ようやく慣れた仕事から、ただいまーと帰ってきたら部屋で、リヴァイと、私の匣兵器ハムスター「空海」
が臨戦体制で睨み合ってました。


あれ?
お留守番してた空海、知らない人みたらいつも隠れるくせに、何けんか腰になってるの?


リヴァイも、私と同居してるわけじゃないのに、なんで勝手に部屋に入ってるの。

(そういえば、ここに泊まった翌日から無断侵入されたっけ)

何故か、彼はここの鍵を自由に空けて入ってこれるのだ。・・鍵開けは地下街っ子に必須のスキルなの?


よく見たら、リヴァイは手に箒を持ってる。
ああ掃除しにきてくれたんだ。納得。



・・・
じゃない!


初対面の一人と一匹は、ベットの脇と、シーツの上ではっしと視線を合わせて


「死ね」
「キュイイイッ」

「ちょ、待って!!!」


慌てて、二人(一人と一匹)の間に割って入ることには成功したけど、私の脳天には見事に
リヴァイの渾身の一撃がヒットしてました。


「痛ったあああっっ・・・!」


コブできた!絶対できた!
リヴァイってどうしてこんな細腕で、怪力なの?!

片手で頭を抱えて、ベットの上に半身崩れ落ちました。
おまけに、突っ込んだ衝撃で抱えてた本を全部、床に派手にばらまきました。


あああ、貸本屋でせっかく見つけてきたのに、傷つけたら弁償だ・・・




「ツバサ、てめえ・・・クソネズミをかばいやがったな。気持ち悪ぃ」


「・・言葉の暴力って知ってるかな、リヴァイ君」



涙目の私を見下げる彼の目が、氷点下レベルに冷たいんですが。
何があったのか誰か説明を!




* * * * * * *



眉間の皺のとれない不機嫌なリヴァイに、とりあえず温かいお茶を出して一息入れました。
ジャスミン茶に似た香りで、気に入ってます。
娼館でまかないのおばさんに、分けてもらいました。


リヴァイと私がお茶を囲む、テーブルの端っこには、空海。

立ち上がってこっち見てます。
リヴァイとガンをとばしあってます。
何、この人達。(もう一匹とか言うのめんどくさい)



「えっと、リヴァイは初めて見るよね。紹介します。
 私のぼ・・(っくす兵器とは言えない)ペットの、空海です。ネズミじゃなくて、ハムスターっていう動物なんだ」


「嘘つくな」



はい、バッサリ切られました。
言葉の暴力、再び。
リヴァイ君、容赦ない・・



「こいつ、普通のネズミじゃねえ。俺の蹴りくらっても、ぴんぴんしてやがる」


・・・終わった。
もう私が来る以前に、一戦交えてたんだ、君達。


リヴァイは綺麗好きだ。
そりゃあもう、下町もとい地下街育ちとは思えない位。

いつのものように私を訪ねてきたら、部屋に入った途端にネズミのようなものとご対面=駆逐する、と
行動したんだろう。
ああ、目に見えるようです。


どうしてこう、リヴァイは鋭いんだろう。おまけに、やたらと子供のくせに強いし、粗暴だし。
今も、空海を目の敵にして・・・なんか、毛を逆立ててる猫みたいだ。

どこか雲雀を・・無愛想で粗暴な幼馴染みを思い出してしまった。
リヴァイには何だか隠し事をしにくく感じるのも、私と一緒に育った彼と、重なるところがあるせいだろうか。



はあ、とため息。
リヴァイは子供だし、正直に話してもいいかな。
信じなければ、それはそれで笑ってすませればいい。
信じてくれたら・・・嬉しいし。


「この子ね、医師で科学者だった父の形見なんだ。普段は、ブレスレットに姿を変えることもできる。
 ・・・おいで、空海」


私の声に、跳ねるように近づいた空海が、左手首に乗った次の瞬間、白い腕輪に変化するのを、
声もなくリヴァイは見つめていた。


「・・生き物なのか、一応」

「息をして動いてるから、そうかな。でも寿命とか年をとることは無いみたい。それは私と」


-----危ない。
さすがにこれを言っては・・駄目だ。
不自然でないように言葉を継いだ。



「・・一緒にいて触れてると、元気をもらえるから、この子はご飯を食べなくても生きていけるの。
 面白いのは私以外でも、命の力を他人から、強制的に吸い取る能力があるってこと」
 
再びハムスターに変化した空海のほっぺたを撫でながら、
「この前、人買いの人達の力を吸い取って全部倒しちゃったのも、空海なんだよ」と笑うとリヴァイの目が丸くなった。



「でも、俺はこのクソネズミに力を吸い取られてない」

「私を守ってくれる時以外は、滅多にそういうことしないから」


「お前を守るもんなら、なんでお前が留守なのに、このクソネズミはここにいたんだよ」

「えっと・・・泥棒入らないようにお留守番と、気分転換のお散歩させようかなって」


「ネズミを部屋にうろうろさせんな。・・汚ねえ」

「汚くないよ!いつも私と一緒にお風呂入ってるし」



話が横道にそれた。
この世界には、ハムスターのような愛玩動物はみないから、リヴァイにはネズミと大差なく思えるんだろう。


でも私は、父さんがわざわざ私用の匣兵器をハムスターに似せて作ってくれたことに感謝してる。
たぶん、私が寂しくないように、ずっと私と一緒にいて癒してくれるようにと願いをこめて
作ってくれたのだと、思うから。


とにかく、普通の状態(兵器じゃない)空海は、私が命令でもしない限り、生命エネルギーを強制的に
吸い取ったりしない、それすら触らないとできないから、ペットと同じなんだよと説明したんだけど



「要するに、たまにしか役立たない穀潰しってことだな」

「ギギギギッ」

「ちょ、テーブルの上で喧嘩しないで!君達」



この二人が仲良くするのは、なんか難しそうです。



* * * * * * * *







不思議な話を、ツバサから聞いた後、いつものように夕飯を一緒に食べようと誘われた。

ふかふかした甘いパンみたいなパンケーキっていう見たことないもんと、
芋のサラダ、赤い野菜が溶け込んだスープは、馴染みなんてないのに柔らかい口当たりで。

ゆらゆら揺れるランプの灯りの下で、ツバサの平和な顔を見て食べるそれはどこかとても大切な味に思えて。

無意識に、ゆっくりと噛みしめながら食べていた。




先に食事をすませたツバサは、テーブルの向いで借りてきた本を読んでいる。
クソネズミは、ちっこい両手で顔をくるくる洗いながら、ツバサの肩の上で我が物顔でくつろいでやがる。

・・・くそ、殴りてえ。
ネズミ野郎の丸い目が、勝ち誇ってるように見えるのは何故だ。



まだ俺の中で消化しきれてねえさっきの話は、辻語りの空想の物語のように現実離れして、全部理解するなんて到底、無理な話だった。


俺に、ツバサが嘘をついて得することなんか、一つもない。
きっと、本当のことしか言っていないんだろう。

だから、どんなに荒唐無稽な話でも。
こいつを信じても、かまわないと思った。




「いっぱい食べてね、リヴァイ」
「俺はいつもしっかり食ってる」

「食べると、背もどんどん伸びるし」
「余計な世話だ。お前こそ、俺といくらも変わらない年でそこで止まる気か」


・・・


「いやいや、リヴァイ君、私って結構年上だと思うよ?」
「馬鹿言うな。せいぜい12やそこらだろう。俺といくつも変わらねえ」
「違うよ!14才だから!」


・・・
・・・


「・・東洋人って奴は、みんなお前みたいなのか?」
「こっちの人が、大人顔なんだと思うよ。・・・たぶん。
 でもリヴァイ、本当に大人びた話し方するよね。口悪いけど」


「あぁっ?」
「ほら、そういうところ。だって、話してると、あんまり年の差わからないもの」


飲みかけのカップをテーブルに置いて、ツバサの白い指先がゆっくりと
分厚い本のページをめくるのを、ぼんやりと見つめた。




「お前、父親の形見だって言ってたけど・・・他の家族、いないのか」

「うん。母さんは父さんより少し前に亡くなった。私は一人っ子だし。
・・一緒に育った幼馴染とか、血の繋がらない兄さんならいたけど」


「こんな場所で生きるより、そいつらを、頼る気はないのか」



「口癖が『咬み殺す』で暴力的な幼馴染と、女たらしで男は診ない医者で裏で暗殺もやってる兄さんだけど」

「・・・頼らないでおけ。ここの暮らしの方が百倍マシだ」



げんなりした俺がついた溜息に、くすくすと笑うツバサの声が重なる。

「いつかは、帰りたいと思ってるよ。・・でもそれは明日かもしれないし、ずっと先になるかも。
 時間はあると思うから、本でも読んで、この世・・・間をよく勉強してるんだ」



「お前、字が読めたんだな。少し前まで、世間知らずもいいとこだったくせに」

「最初は難しくて、コツをつかむまで逆さまに本持ってたけどね。リヴァイは本、読む?」

「読めねえ」

「えっ!将来のために、覚えておいた方がいいよ絶対。一緒に勉強しようよ」




「必要ねえだろ、地下街暮らしの人間に学なんて」
「そうかなあ。だって、空海だってちょっと読めるし、最近は計算もできるようになったんだよ。ね?」



よりにもよって、ツバサは肩で丸くなってるクソネズミに同意を求めやがった。


「空海、1+2は?」
「キュッキュッキュッ」
「正解、よくできました!いいこだね〜」


本から離した小さな手のひらでクソネズミを大事そうに撫でるツバサに、無性に腹が立った。




「・・・おい。俺にも明日から、字を教えろ。クソネズミに負けるなんて冗談じゃねえ」

「何怒ってるの、リヴァイ。あ、実は空海のこと好きなの?」

「お前の眼は節穴か」

「ええと、ライバル的なあれで、嫌いつつも惹かれていくとか」

「節穴どころじゃねえ、お前の頭は沸いてる。捨ててこい」



馬鹿なことを言い合って、ツバサが俺の隣で、笑っている。
こいつと会う前に、俺はどんな夜を過ごしていたんだ。

忘れたはずはないのに、もう・・思い出せない。




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