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失った 君の名を呼ぶ

お前が大切だった

いつのまにか 風みてえに自然にそばにいて
当たり前みてえに 俺の隣で笑ってた

しだいに追いついていく 俺の背丈と
なぜか変わらないお前の姿に 見えないふりをした

俺の知らない名前を口にしても 耳を塞いだ
壁より遠くを見るその瞳に 気づかないふりをした


大人になれば
この自由な鳥のような生き物を繋ぐことができると 待ち焦がれていたんだ


どこにも行けないように飛べないように
力尽くでも その翼をもいでしまえると


ガキだった俺の ほの暗い願いが叶う日はこなかった
大人になった俺の 隣は空っぽだった


全てを失ったあの日から
終わりの見えない輪の中で 俺はお前の夢ばかりみている




* * * * * * * *



手酷くやられた怪我も生々しい手下が伝えにきた「調査兵団からの使者」の言葉は、
俺の重い腰をたやすく動かした。


「用向きは、貴殿を調査兵団へ勧誘することだが、貴殿が預かっている『カザミのブレスレット』
 もこちらへ渡してもらいたい」


おそらく、言われたままに伝えたのだろう手下の跪いた身体ごと、蹴り飛ばす。
ゴキッと骨が逝った音と共に、そいつは悶絶して崩れ落ちた。
扉の向こうで控えていた手下達は、仁王立ちする俺に目を向けたまま、歯の根も合わず震えている。

そんなに俺が怖いかよ。
どんな形相してるかなんて、俺自身にはわからねえがな。
今の俺は、お前らが小便ちびりそうな位恐ろしい顔をしてると、言いてえのか?


「・・・巨人に喰われるよりも俺になぶり殺されたい奇特な奴らを、ここに案内してやれ。
 役立たずなてめえらはいらねえ。そいつらを連れてきたら、奥にすっこんでろ。
 邪魔したら、てめえらごとぶっ殺す」



(ああ・・・悪くねえ。)

くつくつと嗤うと、今度こそ蜘蛛の子を散らすように、手下共は闇へ消えた。



久々に耳にした、あいつの過去の名残。

あれを渡せと?
ここにやってきたのは、あいつの係累か?
どんな関係だったのか、聞き出してから殺しても遅くはない。


俺の機嫌は最悪だが、高揚した身体は叩きのめす獲物を待ち焦がれている。
手の中の「ブレスレット」が、びびったのか丸く固まったのを、鼻で笑った。



「俺が、お前以外の奴にコレを渡すと思うか?・・・・ツバサよ」




(生きて、リヴァイ)

(お願い、リヴァイを守って。絶対死なせないで)



最後に聴いたお前の声は、俺を縛る呪いのように
今も俺の胸を抉りつづけている。

一人、残されたという現実と、

この約束の印と共に。







* * * * * * * * *




だだ広い石造りの部屋の中、招かれざる客達と対峙した。

ここはいくら血に汚れてもかまわない場所だ。
死体も臓物も汚ねえ名残は、今はかっ消えてる手下共が、どうせ跡形もなく始末するだろう。


ちらちらと煽る灯火に、見知らぬ二つの人影が浮かびあがる。
一歩前に立つ背の高い兵士、とり澄ました金髪の男が最初に口を開いた。


「リヴァイ殿。お目にかかれて光栄だ。私は調査兵団分隊長、エルヴィン・スミス。
 このたびは突然訪れたにもかかわらず、会ってもらえたことに、まずお礼を申し上げる」


貴族出身なのか、自然と漂う品格がある。
堂々と胸を張って真っ直ぐに俺に視線をむける男の面構えは、こういう状況でなければ、
おそらく俺が嫌いではない部類の人間に見えた。


もう一人の兵士は存在感が薄かった。前に立つそいつの背後に隠れている上、フードを被って顔は見えない。
予想以上の地下街の襲撃に、今更びびって小さくなっているのか。

チッと舌打ちすると、大げさに隠れたそいつの肩が震えるのが見えた。
怖くて上司の背中に隠れるなんざ、見下げ果てたもんだ。



「てめえらの用向きは、さっき聞いた。
 調査兵団なんぞ、恩も何もねえもんに俺が興味を持つわけねえだろ。
 正直、どうでもいい。
 お前らの本当の目的が、俺の暗殺だったとしてもだ。今まで一度も、生きて帰った奴はいねえからな」


そいつらは、全員川の藻屑にしてやった。
魚のいい養分になったろう。


「私達は、貴殿と話し合いたくてやってきた。どうか腹を割って話せるように機会を与えて欲しい」


「いいだろう。じゃあ初めの質問だ。何故こいつを渡せと言いがかりつけてきたか、まず説明してもらおうか?」





俺は、左腕をずいと男へ突き出した。

俺の指先でつまみ上げられ、足をばたばたさせているのは、毛玉だ。




キュキュッキュキュッ
クソネズミの、哀れっぽい鳴き声が、静寂に響く。


眼前にクソネズミの暴れる腹と金玉を突き出された男は、何とも形容しがたい複雑な表情をした。




「・・・我々は『ブレスレット』と貴殿に伝えたはずだが・・・・」


「ああっ?てめえ、自分が何を要求してるのかもわからずに、来やがったのか?」




ぶち殺す。
そう決めた。

はなから反応を見たらそうするつもりだけだった。
こいつの反応から、何も知らないのはもう割れた。

こいつを殺してから、後ろの奴に「カザミ」の名をどこで聞いたから拷問して聞き出して終わりだ。


用済みだと決めたら、もう身体は動いていた。



ガッ


次の瞬間、男の脇腹へくり出していた殺すための俺の脚は、堅い何かに弾かれた。

視界にそいつのくすんだカーキ色のマントが残像を残して翻る。
俺と男の間に、いつのまにか立ちはだかったのは、覆面をした兵士だった。


そいつの腕に握られた鈍く光る鋼の棒状の武器二本が、背後の男をかばい守るように交差していた。
俺の殺しの蹴りを、これで阻んだのか。


(見たことのない武器じゃねえか。・・・面白い)

びびってたはずの兵士はその細い身体で信じられない瞬発力をみせて背後から飛び出し、俺の知らない技で
男を守ってみせたのだ。





「お前、上司より先に、俺に躾をして欲しいみてえだな。・・・来いよ。お望み通り、床にはいつくばらせてやる」


部屋に暗く低く響いた俺の声に、そいつが微かに頷いた気がした。






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