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White Day Special [FUTURE]


「久しぶりだなー!並盛」


高く青い空。
帰ってくるたび少しずつ変わっていくけど、どこか懐かしい街並みを見下ろして、いっぱいに伸びあがって深呼吸した。


今日は3月14日。日本ではおなじみのホワイトディだ。
帰国したのが偶然、この日だったのは幸運だったと思う。それとわかったから、事前に準備もできたしね。




「風見。もう戻らなければいけない時間なんだが」

「あ、すみません。その前に一カ所、寄りたいとこがあるので先に戻っててもらえますか」




迎えに来てくれた草壁さんの問いに、笑って答えた。

昔とあんまり変わらないリーゼント姿の草壁さんは、それでも大人らしい渋さを増して格好良くなった。
(葉っぱをくわえてるのはポリシーなのかそのままだ)

そして今も雲雀の片腕として「風紀財団」を取りまとめている。


「折角だから、友達に会いにいこうと思うんです」





White Day Special [FUTURE]





幸い、記憶は間違ってなかったようだ。

「友人達」に以前教わったアジトの入り口は、覚えていた場所でちゃんと見つかったのでほっと安堵した。
まあ迷ったら、ケータイかければいい話だけど。

折角だから、びっくりした顔が見たいと思わない?



何重ものロックを生体認証でクリアしながらくぐりぬけて、奥へ進む。

いくらボンゴレの次期ボスとはいえ、綱吉君は、よくこんなでっかい地下基地を作ろうと思ったなあと感心する。
あれかな、男の子は昔から基地ごっことかアジト作りとか大好きだから。


そういえば・・・雲雀も似たもの同士だ。

(ボンゴレと張り合うみたいに、同じ頃に隣接させて大きなアジトを作ったあたり・・・やっぱり男の子だからかな?)



一人で思い出し笑いしていたら、シュンと軽い音と共に開いた目の前のドアから、背の高い少年が飛び出してきた。


「翼姉!いつこっちに戻ってきたの!?」

「どわっー!」


しましまマフラーの少年(十代後半だから青年に近い?)フゥ太に問答無用で抱きつかれ、勢いを殺せずに後ろにたたらを踏んだ。

だって、フゥ太ってもう私より10センチ以上、背が高いんだよ?
サギだ、昔はあんなに小さくてトコトコ後をついてくるような子供だったのにっ・・・!



「フゥ太、でっかくなりすぎ!また伸びただろ」

「うん、成長期だから。もう翼姉を抱き上げることだってできるだろうな・・そうだ、試してみていい?」

「いや遠慮するから」

「すっぽり僕の腕にはいっちゃうこの感触が、可愛いよね・・あちこち、柔らかいし」

「こら、さりげなくどこ触ってるの」



すっかり私より大きくなった男の子の手のひらを、ぺちりと叩いて身体を離した。
危ない、危ない。

私も昔のままじゃない、さすがにちょっとは学習してる。

いくら可愛くても、やっぱりイタリアの血は争えないというか、フゥ太は会うごとに天然タラシへの道をちゃくちゃくと進んでいく点が多いに不安だ。



・・・某タラシ医者の影響だろうか。

あの人、存在自体が青少年の教育上、悪影響の塊だからなあ。
ボンゴレ内の天然比率がこれ以上上がるのは、友好を保ちたいこちらとしては御免被りたい。



「他のみんなは、奥にいるの?」

「今日はね、出てる人が多いかな。
ええと、ツナ兄は京子姉とお出かけしてて、ハヤト兄は護衛だって言いはって、こっそり後をついていってるし」


ふうん、ああでもホワイトデイなんだから、デートくらい当然かな?
最近、あの二人は良い雰囲気だって噂はきこえてきてたし。(極寺君は相変わらず十代目馬鹿なんだね・・)




「リボーンは朝からビアンキ姉に追っかけられて姿が見えなくてね。ランボとイーピンは学校に行ってるよ」

「あ、そうか。今日、平日だしね」


しまった。そのへんは忘れてた。日本を離れて、ちょっとボケてたかも。
少しがっかりした私を見て、フゥ太はくすりと笑った。



「でもちゃんと残ってる人もいるからね。
笹川兄はまだ2,3日経たないと帰ってこないけど、一足先に帰ってきた」


フゥ太の言葉はいきなり目の前に現れた黒い壁で、遮られた。




ガバっ

ゴスッ



---前者、黒の背広男が私に抱きついた音。
---後者、反射的に私がその男の顎に下から拳でアッパーをかませた音。



「おいおい・・親友と久々の再会だってのに、冷たくないか?翼」

「友達は、いきなり襲いかかってキスしようとしないってば。それ、犯罪」


「マフィアのアジトに堂々入ってくるんだから、これくらのスキンシップは許せるよな」

「貴方、犯罪止めますか?それとも親友やめますか?」




充分な警戒は残しつつ、ゆっくりと上に突き上げた拳をおろして、私は爽やかな満面笑顔の長身の男・・・山本武に、向き合った。

壁に張られた頑強な両手に囲まれてるから、不本意ながらいまだ捕まってる状態だ。



「勢い余っただけだから、些細なことは気にすんなって!」

「いや、普通は気にするよ・・山本、今まで何度、コレ繰り返したか本当に覚えてない?」


元祖・天然の顔を私は見上げた。
くうっ、元もと背が高かったけど、山本ってば更に伸びたのか首が痛い!

そんな私の苦悩を余所に、奴は(友達だけど、最近扱いが悪い)指をひーふーと折り始めた。



「うーん・・・さっきので98回?」

「確信犯っ!?」(しかもカウントしてる)


それは一体なんの作戦だ。
成功するまでチャレンジするつもりだろうか。


昔より更に精悍になった友人を、どこか怖い動物を見るような目で凝視してしまう。
山本は、無造作に手をのばしてぐしゃぐしゃと腕の中に囲った私の頭を撫でまわしてきた。

普通にしてれば、格好いいのになあ・・・顎についてる切傷さえプラスになるんだから、男は得だ。


「それより翼は、いつ日本に帰ってきたんだ?」


しばらく日本にいられるんなら、遊びに行こうぜ、と続けられた言葉に、我に返った。
本来の目的を忘れるとこだった。ぐずぐずしてる場合じゃない。


「ついさっき来たばかりだよ。折角のホワイトデイだから、女性陣にお土産を渡そうと思って」


持ってた旅行カバンから、数個の包みを取り出した。

日本に帰れるとわかった時に、向こうで美味しそうなお菓子を見繕って買ってきた。
女の子は結構、外国のお菓子は興味があって喜んでくれるだろうし。

ボンゴレの女の子達は、「男の」風見翼宛に、先月、律儀に義理チョコを送ってくれたのだ。
その御礼はぜひしたいと考えていたから今回はちょうど良い機会だった。


会えないのは残念だけど、仕方ない。
後で皆に渡してねと、それらはフゥ太に預けることにした。腕時計をみると、そんなに時間が余ってないのがわかったからだ。



「ああ、そういえば今日は14日だったな。だからツナの奴、朝からそわそわしてたのか」

豪快な笑いをおさめると、山本はちらりと私を見下ろした。


な、なんだろ。その意味ありげな視線は・・・


「なあ、翼。・・俺、先月、チョコレートもらったよな?」

「あ、うん。送ったね(日本にいなかったしね)」



もちろん、由緒正しき?義理(友情)チョコだ。

随分前から、山本には「チョコが欲しい」と言われていたからだ。
ちなみにボンゴレメンバーでは、フゥ太やリボーン、シャマルにも送った。(理由は前に同じく)

昔からそうだけど・・・私って、バレンタイン関連は、もらったりあげたりと男女共に忙しいイベントと化している。



「だけど、俺も仕事から戻ったばっかで、何も用意できなかったんだ。・・お前が戻るって知らなかったし」

「ああ、気にしないでいいよ」



私は、ほんとーに本心から、そう言ったのだけれど。山本はじりりと距離を詰めてきた。

あの・・・え、笑顔がなんか怖いんだけどー!?
(黒い何かがにじみでてる)



「そういうわけだから、礼は俺でいいよな?」

「い、いらないよ!」

「遠慮すんなって。日本に戻ったからって、謙虚にならなくていいんだぜ」

「関係ないよ、それよりどうして刀を抜くのさっ!?」



いつも背中にしょってる日本刀を、逆手で鞘から抜きながら山本は妖しく笑った。


「逃がさないため念のため、な。折角、飛び込んできたチャンスだし」

「殺す気か!」


ボンゴレ1,2の剣豪相手じゃ、私が本気でも無傷じゃすみそうにない。


「まさか。でもツナが常々言ってるんだぜ。
『もし翼さんをボンゴレに引きこめたら、怖い者無しだよね。ファミリーの誰かの妻になってもらうのが一番なんだけど』って。つまりボス公認って奴だな」



嗚呼、ボンゴレ十代目の組織は、上から下まで真っ黒です。
流石イタリア随一のマフィア。(昔はみんな、純真な少年だったのに・・)

いや、誉めてないよ?

悪?の巣窟に手ぶらで乗り込んだ私が所詮アホだったんだろうかと、落ち込んでるだけで。



あまりの迫力に、 フゥ太は硬直して壁に張り付いてる。

うん、普通はこういう危ない人って避けたいよね。
私も逃げたい・・けどできない、から。


(仕方ない、ケガだけはさせないように気を付けて反撃しよう)

迷いながら、でも至近距離の山本の目が怖いので目をつぶって構えた瞬間



ドゴオオッ



私の顔の隣の壁面が、粉塵を巻き上げながら砕け散っていた。

恐る恐る目を開けると、山本の頬に、赤い切り傷が見えた。血が、一筋つうと伝って落ちる。
壁に直角に突き刺さっているのは、鈍く光る銀色の凶器。



「山本武。・・・今日こそ、咬み殺すから」



地獄の底から沸いてくるような低い声に、心底、震えあがった。
助かったはずなのに、悪寒がするのはどうしてだろう?



* * * * *



「よっ、お前も帰ってたのかヒバリ。ヨーロッパの飯は美味かったか?」

「さっさと翼を離してくれる?」


キンッと高い音をたてて刀と鍔競りあう。
重い殺気のぶつかり合いに、周囲の空気まで急速に重く濃度を増したようだ。


能天気な口調がいつも気にくわない男の影から、ようやく翼が離れたからすぐ腕の中に隠した。

これ以上ぶしつけな視線に晒して、翼が減ると困るからね。



「なに道草くってるの。馬鹿じゃない」

「ごめん、雲雀。すぐ戻るつもりだったから。でも・・ココだってよくわかったね」

「ヒバードに発信器ついてるから」

「えっ・・嘘、ついてきてたんだ、あの子!?」



翼は今になってやっと、楽しそうにパタパタと天井付近を飛びまわってる鳥に気が付いたみたいだった。

相変わらず、味方の気配には疎いんだから。
これだから僕は目が離せないと思ってしまうんだ。

とん、と翼の背中を出口へと押しやった。


「君は先に戻ってて。殺り終えたら一緒に帰るから」

「ちょ、『殺る』って何物騒なこと言ってるんだよ!山本は友達だから」

「その友達に昔からいちいち襲われてる癖に、一向に学習しない君が馬鹿だからだよ」



へらっとした笑みを貼り付けて、山本武の目は笑っていない。

当然、僕もそうだ。
こいつだけはいつか殺さなければと、昔から思っていたけどそれが今日になっただけの話だ。

殺ると決めたからには、徹底的にやる。懐から匣を取り出した。



「撲殺と窒息と刺し殺すの、どれがいいか選ばせてあげるよ」

「そいつは、どれもお断りだな。俺の人生設計は、翼を嫁にもらって子沢山、野球チームを作ることだからな」


「それ、生きてても絶対叶わないから。今すぐ死んでくれる?」

「それはどうかな。未来なんて、決まっちゃいないんだぜ」



お互い、耐えられる間合いは限界に近かった。

僕のトンファーと奴の刀から燃え上がる炎は、密閉された地下空間の壁に濃い影を浮かび上がらせる。
指輪をまさに発動しようとしていた僕達の間に、寸での所で割り込んだのはやはり翼だった。




「ストップ、ストップー!
守護者同士が、よりにもよってボンゴレ内で殺し合うなんて正気じゃないだろ!落ち着けってば」



さっきまで僕が持ってた匣は、翼の手の中だ。
相変わらずそういう所だけ素早いんだよね君は。


「ハリちゃんを無駄死させるなんて、俺、許さないからね」

「君いつのまに、僕の匣にそんな変な名前をつけたの?」



あまりの平和さに、毒気を抜かれる。
山本武も構えを解いて刀先を落とし、苦笑して翼をみつめていた。


僕はその時になって奴の肩に小さな人影が乗っているのに気付いた。
手をあげて、「それ」が挨拶をしてきたからだ。




「ちゃおっス、ヒバリ」

「・・・やあ。久しぶりだね、赤ん坊」

「お前ら、相変わらずだな。今回も一緒に出かけてたのか?」




ボンゴレ諜報部からの、情報か。

赤ん坊の元には、僕と翼の近況が随時届いているに違いない。


僕は翼から匣を取り戻して、また懐にしまった。
「ここ」で殺りあうのは得策ではないと、判断したからだ。



「まあね。僕がついてないと、翼は危なっかしくていけない」

「・・・雲と風相手に、無駄な質問だったな」


戦闘態勢が解かれたことに、翼は安心したみたいだったから、僕はその手を握った。
赤ん坊とはもう少し話したい気もしたけど、ここに用なんてもうない。



「僕達、帰るから。赤ん坊、またね」

「あの・・会えなかったけど、綱吉君とか他の皆にも、よろしくね!」


僕に引っ張られながら、ふり向いて手をふる翼を咎めようとは思わなかった。

だって僕達は同じ場所に、帰るんだから。
別れの言葉を許すくらいには、僕は大人になったんだ。





* * * * *




高い石段を、翼と一緒に登っていく。
緑の木立の隙間からは、白い雲を浮かべた空を背景に、並盛の街がくすんだ色で並んでいる。


今頃、哲は心配しながら僕らの帰りをアジトで待っているだろう。

顔を腫らしてるだろうから、翼は驚くかもしれない。
一足先にアジトに戻った僕の代わりに、あいつを翼の迎えにやったのに、哲が一人で戻ってきのが原因だ。

当然、僕は一発殴った。
勝手に行動した翼と、哲の甘さが原因だから、同情は必要ないけどね、



「ここは、あまり変わらないね。雲雀」

「・・そうだね」




君と僕は、以前もこんな風にこの石段を上がっていった。

君はバレンタインのケーキを持って。
不機嫌な僕は、すこし遅れて君の後を歩いてた



「でも時々、帰ってくると変わってるコトも沢山あってびっくりするんだ。
フゥ太の背がまた伸びてたり、あの綱吉君が京子ちゃんとデートなんてしてるし」

 

昔の僕は、変わることを知らなかった。
もし気付いていたとしてもきっと・・・自分とは関係ないと思ってた。
  



「ちょっと寂しいけど・・変わったのは自分達もなんだから、あいこかな?」


蕾がふくらみかけた桜の木の前で、翼が笑った。

その笑顔に釣られたから、僕も笑っていたかもしれない。



「・・・僕は、君さえいれば寂しくなんてないよ」



強く吹いた風にざわざわと大きく枝が鳴ったから。
答えにもなっていない僕の小さな声は、君に届いたろうか。







境内へ続く道を縁取る沈丁花の木陰から、ひょこりと作務衣姿の老人が顔をだした。


「おやおや。つがいの鳥ら、帰ってきたのかい」


手に長柄箒を持って、ひょひょひょと笑う。
そろそろ年が年だから孫が宮司を継ぐと最近聞いたはずだけど、この人の周りは時間が止まってる気さえする。



僕らの繋いだ手をみて、表情をからかうような色に変えた。

「雲雀のぼんは、そろそろ気付いたかの?」




------あの子は変わって、到底ただ人には留められぬモノになる。
   それがつがいの、雲雀のぼんでも、の




宮司の視線に、翼はようやく、人目があることに気付いたんだろう。

わたわたと僕の手を振りほどこうと暴れだした。
もちろん、離してあげないけど。


「わ、これはっ・・って雲雀、手、離そうよ!」

「やだ」

「やだって、子供じゃないんだから!」

「子供じゃないから、離さないんだよ」



僕はね、まだわからないんだ。

君を「ここ」に留めておく方法なんて、今も確信は無い。
君をこの手でこうして逃げないように捕まえてるのが、精一杯だ。


・・・でも


「今日はホワイトデイでしょ、翼。後でいいものあげるから」



僕が微笑むと、驚いたように瞳を見開いた翼が、ぱっと頬に朱を散らしていく。

その表情を、とても可愛いと思う。

離れないまま、僕の手の中で大人しくしている小さな手のひらが愛しいと想う。



「証を、あげる」



そう告げて、左手の薬指に口づけたら。

真っ赤になった翼は声の無い悲鳴をあげて、その代わりに老宮司の大笑いが境内に響いた。




-------それは

僕が 未来の訪れを信じていた頃の 「 幸福の形 」 だった
 






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