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白い箱



ざわざわざわ・・・

貼られた新聞記事の写真に、思わず呆然としてたら周りも、私に気づいたみたいだ。
こちらを盗みみて、騒がしくなっていく気配が多くなっていく。

えっと・・・こういう時は、どうしたらいい!?



今まで、地味に・・というか目立たないように(風紀活動以外では)してきた。
それだけに、こんなスキャンダルみたいな場面だと、どう反応したらいいか皆目わからなくて途方にくれた。

極寺くんの向こうから、沢田くんも「どうしたの?」と呼びかけながら近づいてきた。

うっ、逃げるのはやっぱダメだろうか。私を知ってるクラスメイトが増えるばかりなんだけど!


体が思わず、一歩下がった。(逃げたい!)
でも背中が、とん、と壁みたいなものにぶつかって止まる。

それと同時に、頭上から降ってきたのは聞き慣れた声だった。



「よっ、何してんだ?」

「や、山本!」


当事者、来た-----!!!








-----白い箱------






    
周囲の(特に女の子達の)ざわめきが増した。
「山本だ」「野球部の・・」ひそひそと呟く声が否が応でも耳に入ってくる。


山本は、そんな声には全然気づかない風に私の隣に並ぶと、大きな声で「へえ、なんだ昨日の写真じゃん!ははは、隠し撮りかよっ」と軽く言い放った。

ちょ、そこ、そんな朗らかに笑うところかな??



「えっと、山本、あのさ・・」

言いかけた私の背中は、ばんと叩かれてむせかえりそうになる。


「でもさ、翼とオレっていつから秘密のかんけーなんかになったんだ?オレ、知らなかったぜ」

「俺だって知らなかったよっ!」



あ、反射的に言い返しちゃった。いや、あんまり山本が明るく言うもんだからつい。

でも、それがかえって良かったのかな。
なんか周りから、ぷっと噴き出す声や、「なにふざけてんだよお前ら!」とかヤジがとんできた。



「まあなー、俺達って仲良しだもんなーというか、もう秘密じゃない関係ってことで、付き合っちゃわねえ?」


調子に乗った山本が、肩を組んでふざけてくる。

いやでもね、昨日の今日だから!



告白されたばっかだから、そういうスキンシップには思わず拒否反応というか、過剰反応してしまうよっ

力では叶わないけど、精一杯抵抗しながら(でも山本、力強いよ!)



「ば、馬鹿かっ!冗談ゆーなよ山本!」

「そっか?オレは翼のこと、大好きだぜ?これで公認だなーっ」



がははと笑いながら、私にじゃれかかってくる山本と、抵抗してる私は既に、格好の見せ物状態になってるらしい。

さっきまでの、微妙な雰囲気はどこかへ消し飛んでた。


「お前ら、ちょっとは隠せよ〜」

「よっ、風見の貞操がピンチだな!」なんて声が聞こえてくる。



「いや〜っ!山本くんが風見くんとなんて・・・」

「・・・でも、なんか可愛いよねえ」


「うん、ちょっと・・いいかも」

「ねー!いい男同士だもんねえ・・・」



・・・ってなんだなんだ、特に後半!女の子達の囁きが怪しいってば!


調子にのって後ろから抱きしめてくる山本から逃げようと、じたばた抵抗を続けてたら


「けしからん!お前達、伝統ある体育祭の朝っぱらから、何を騒いでおるかーっ!!!」



(笹川さんの)お兄さん来た---っ!!




ジャージ姿でぱっちり用意万端な笹川お兄さんがずんずんと近づいてくる。
すっかりぐだぐだに砕けた感じになったその場を、一喝された生徒達は皆、やばいとばかりに我先にと散り散りになっていく。


その隙に私も、山本も人混みにまぎれて抜け出していた。

先に走りだした山本が手を握って引っ張ってくれる。振り向いて小さく「ごめんな」と唇だけで伝えてきてくれたから。


ああ、やっぱり。

山本は、天然にみえてたけど、さっきは私を守るために演技してくれてたんだと理解した。


(ありがとう。・・・山本)


私にとっては、やっぱり山本は大切な友達で、今まで一度も恋愛対象って見たことはなかったんだけど。
どうして山本が、女の子達に憧れの目で見られてるのか、今はちょっとその気持ちはわかる気がして、何だか胸がどきどきした。


(これって・・・不整脈?)

今日もしっかりシャツの下につけてるサポーターごしに、胸を押さえた。




                                                     

* * * * *






朝から、思いがけない一騒動があったけど、何とか風見くんも山本も、無難に切り抜けられたみたいでほっとした。


「とりあえず、オレは保健室で寝てよっかな・・」


ダメツナって呼ばれてるオレは、ああいう時にも、とっさに気が利かない。
友達が困ってても、何も助け船を出せなかったことに少なからず落ち込む。


(・・今に始まったことじゃないけど)


最近、リボーンのおかげでちょっとずつ、ダメじゃない自分が見えてきたのに。
ああ、熱もまたちょっと上がってきた。くらくらする。



昨日の棒倒しの練習でオレは川にドボンしちゃって、本物の風邪をひいてしまった。
本当なら、家で休んでたかったんだけど・・・


(母さんもビアンキも、果てはハルまでオレのことなんかお構いなしに盛り上がってんだからな〜)


「ツナは総大将なんだから、頑張ってよ〜!」

朝からテンション上げてる母さん達に追い出されて、「風邪で休みたい」って言うタイミングを逃しちゃったんだ。



他のみんなや先生達は、体育館やグラウンドに集まりだしているんだろうな。

(風見くんや山本達も、着替えて準備してるかな?)

喧噪は遠く、オレの力ない足音だけ、とぼとぼと廊下に無駄に響いていた。




「すいません・・・?」


しんと静まりかえっている保健室の扉を、おそるおそる開けた。
朝の明るい窓際に、白衣の先生の後ろ姿があった。


あれ。

男の先生?・・珍しいなあ。



そういえばちょっと前、養護の先生が育休をとったって聞いたような気がする。
たぶんその代わりの人なんだろう。



「すいません、あの、風邪をひいて・・熱があるみたいな」「カゼくらいで休ませねーよ」


遠慮がちにかけたオレの言葉は、振り返った、嫌に見覚えのある無精ひげでスケベ顔の男に遮られてしまった。


(シャ、シャマル!)



「つーか、男に貸すベットはねーんだ。・・いや女性は別だぜ、いつでも大歓迎だ」



おいおい、誰があんたの嗜好をきいたんだ!
それより何より、


「なんであんたが、ここにいるんだよっ!!」


女好きで酒好きで医者のくせに男は診ないという禄でもない奴だ。(でもこんな奴でも、オレの命の恩人って一体・・・)


精一杯の抗議をこめてオレが睨んでも、シャマルはへらへら笑ってこたえやしない。

椅子の上でふんぞり返って、ぎーこぎーこと揺らしはじめた。



「大人のアソビに決まってんだろ〜?夜遊びだよ夜遊び!
ちーっと羽目外して、オケラになっちまってな。そしたらここで、養護教諭の募集してただろ?渡りに舟ってな」


「そんないい加減な理由かい!」



脊髄反射の勢いで思わず突っ込んだ。

(頼むから先生の採用は、人間性も吟味して採用してくださいよ!)


心の底から懇願。(採用担当の先生に電波を飛ばしたい)


だってこの人、キス魔だ。その上、無類の女好き。
女子しか診ないなんて言ってる外道な医者が保険室の先生なんてあり得ねえ−っ!



今だって外から女の子の黄色い声が聞こえたら、窓から乗り出して
「オジさんにチューさせてくれ〜オナゴ達〜」とか血迷ってる中年に、オレは目眩を覚えて後ずさった。


こうなったら、風邪薬だけもらって逃げだしたい。必死でオレが机の上や棚に視線を彷徨わせると、小さな白い箱が、目に飛び込んできた。

(・・・・なんだろう、これ)


机の上に、シャマルのものらしい鞄や、ノートとかと一緒にあったそれは。
手のひらにちょうど乗るくらいの大きさの、正方形の箱だ。

古風な縁取り模様があって、アンティークっぽい雰囲気でもある。
真珠みたいな不思議で深みのある白はとても綺麗でどことなく心が惹かれた。


オレはその時熱があって。

ぼーっとして、本当は風邪薬が欲しいと思ってたはずなのにどうして、これに一番に目がいったんだろう。
でもその時は疑問にも思わなくて、無意識に手を伸ばしていた。



「それに触るな、ボンゴレの坊主」


ひやりと冷たい手が、オレを遮ってはっと気づいた。



「ご、ごめん。えっと・・・これ、シャマルのもの?」

「・・いや。預かりモノだ」



大好きな女子の黄色い声にも目もくれずに真剣な目でオレを見つめるシャマルは、さっきと別人みたいだ。

背筋が冷える。

ふいに、リボーンが
「シャマルはトライデント・シャマルっていう殺し屋だ」と言ってた事を思い出す。



なんだか目の前の箱が、怖いもののような気さえしてきた。
シャマルはオレを遮ってから、顎に手をあてて何か考えこんでるみたいだったけど。



「そうか・・・お前も可能性はあるんだよな。よし」

顔を上げたシャマルは、ぶつぶつ妙なことを呟くと、その白い箱を持ち上げて、


「ほい」
とオレに差し出してくるから、思わず

「はい?」
って・・・え。受け取っちゃったよ!



「しゃ、シャマル!これって、暗殺に使うとか、なんかやばいもんじゃないの!?」

だってあんたこれ、さっき触るなって言ったじゃん!



「そんなんじゃねえよ。それよりお前、何ともねえのか?」

「何ともって」


オウム返しに問い返した瞬間、スッと血の気が引くような感覚に襲われた。

(な、何だこれ!?力が、抜けっ・・・)


物凄い脱力感。
貧血なんて、なった事ないけど、こんなんだろうか。

白い箱を取り落としそうんなったけど、シャマルが何するかわからないからぐっと耐えて、でもその代わりに膝が砕けた。


へたへたとその場に座り込んでしまう。
きっと今、オレは顔も青くなってるに違いない。



シャマルはへらっと笑って見下ろしてくる。


「おうおう。やっぱりお前、リボーンに見込まれただけあんなあ。・・・死ぬ気の炎を灯すボンゴレの血は伊達じゃねえってことか」

「ちょっと、シャマル、オレに何したんだよっ!」


「濡れ衣だな〜オレはなんもしてないぜ。ちょっと実験に付き合ってもらっただけじゃんか」


白い箱は、ひょいとシャマルの指でつまみあげられ、オレから離れた。
ふっと体が楽になる。まるで・・それが今の、異変の原因だったみたいに。


「シャマル。その箱・・・なに」

「お、気になるか?」

「ちゃかさないでよ。オレ、それに触った時・・・なんか吸い取られた気がする」



綺麗な箱だ。
不気味とは思わない。思わないけど・・・

異質な、何かがそこに存在してるような居心地の悪い思いがするんだ。
理由なんてうまく言えないけど。ただの勘って言うんだろうか。


シャマルはもう、オレには興味ないって風に椅子に腰掛けてる。
あの箱を、手のひらに乗せて、大切そうに包み込んでいた。


(あれ・・?シャマルは、何ともないんだ。あれを持っても)



「ボンゴレの坊主。この匣はお前から、死ぬ気の炎を吸収したんだ」

「えええっ!じゃあオレ、さっき命を吸い取られ」


「馬鹿。命じゃねえよ。お前が死ぬ気弾を受けたときに、額からだしてるアレだ。
お前がもってるあの炎は、圧縮された生体エネルギーだというのが一説だ」



思わず、手で自分の額に触れた。リボーンがいつも有無をいわさず撃ってくるあの弾には、そんな力を引き出すものだったんだ・・・



「あの、それで結局、オレからエネルギーを吸い出して、どうなる箱なんですか?」

「・・・ばあか。教えるかよ。預かりものだって言っただろ。トップシークレットだ」



その預かりもんで実験したあんたがそれを言うか。
オレが反論する気力もなくして、くらくらしながら保健室の出口へ歩いていくと後ろから何かが飛んでくる気配がして。


「いてっ」

後頭部に軽い箱みたいなものが当たって、床にぽとりと落ちた。
・・・これ、風邪、薬?




「オレは男は診ねえが、さっきの礼だ。それ飲んで、とっとと走ってこいや」


もうこっちなんて目もくれずに、窓の外の黄色い歓声に気をとられてるシャマルだけど。

・・・珍しいんじゃないか?
この外道が、治療しないまでも薬くれるなんて。



オレはシャマルの気が変わらないうちにと、風邪薬を拾ってそそくさと部屋を出て行った。
だから




その後、シャマルがあの箱を手にしながら

「・・・あの女を殺しておけば、こんな事にはならなかったのにな」


とか物騒な事を呟いてるなんて、知るはずもなかった。





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