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獣の恋-後編


オレは、こいつを以前から知ってた。



ヒバリこと、雲雀恭弥。
風紀委員長でありながら、並中はおろか他校の不良達にも恐れられ頂点に君臨している男だ。


並盛に住んでいれば、先輩達や友達からこいつの噂話を聞くことは多い。
部活に入ってないツナや転校してきたばかりの獄寺のように、ヒバリを知らない奴はかえって少数派なんだ。


ぱっと見た目は優男に見えるけど、これほど内面と外面が異なる人間も珍しい。
相手が上級生だろうと他校生だろうと、気にいらない奴なら容赦なく、愛用の仕込みトンファーで滅多打ちにするという危ない奴だ。


そいつが、オレが翼の名をだした途端、表情を変えた。

奴は「人」、なのに。
一瞬で獣に、変わった。




-------初めて、だった。
これほどの憎しみを向けられたのは、オレは初めてで。

でも、どこかこの感覚には、覚えが・・・あった。




焼けつくような。
道を探してる時にも似てる焦れた感情を向ける、
その視線の先にはいつも----------




一瞬の隙もなく繰り返されるトンファーの攻撃を、必死で避けながら



(こいつ、オレと同じだ)

(翼に・・・惚れてる)



唐突に気づいて、そして動揺はオレの動きにでていたんだろう、
奴は口端を上げて笑って



「ケガでもしたのかい?・・・右手をかばってるな」


反射的に、右を庇うように左手が伸びていた。
治って間もないその場所に。



「当たり」


ドオッ

ヒバリの強烈な足蹴りに吹っ飛ばされて、痛みと衝撃に意識が遠くなっていく。




(まさか、ヒバリなのか)


いつか翼はちょっと照れたように笑って言ってた

「幼馴染がやってるんだ。・・・風紀委員」


正直、妬いてた。
オレより昔から翼の傍にいて、オレよりずっと翼のこと知ってる奴に。

なのに。
そんな、お前みたいな奴が、彼女の--------



                                                 
* * * * * *




「3匹」


冷静にカウントをとりながら。
頭の中はまだ熾き火のように真っ赤な怒りで凝っていた。


山本武は動かなくなった。


・・・まだだ。
とどめをささないと。

二度と、翼に近づけないように。



歩き出そうとした足を止めたのは、意識を戻した一番弱そうな草食動物が騒ぎだしたからだ。


「ご・・・獄寺くん!?山本!!な、なんでっ!?」

「起きないよ。二人にはそういう攻撃をしたからね」



最初にトンファーの餌食にしたこの彼には、少々打撃が甘かったみたいだ。
弱い奴でも手を抜かず、念いりに咬み殺さないと駄目だね。


早く始末をつけないと、翼が来てしまう。
僕がまず倒れてる二人を片付けようとしたら、突然、さっきまで怯えていた草食動物が叫びながら殴りかかってきた。


素人くさい、甘い拳だ。
かわしながら笑ってしまう。

おまけに何の冗談なのか、彼は服を脱いで下着一枚の姿だった。




「なに、それ。ギャグ?」


冗談だとしても許しはしないけど。
こんな下衆な姿の生徒は、風紀が乱れるから、早く僕の学校から追い出さないと。


回転させたトンファーを隙だらけの顎下から食らわすと、猛り狂ってた草食動物は、あっけなく床に沈んだ。
アゴが割れちゃうかもしれないけど、自業自得だよね。

目つきが普通じゃなかったのは、仲間とやらの群れがやられたから興奮してたんだろう。
それにしても弱すぎる。



(あとの二人も救急車に乗せてもらえるくらい、グチャグチャにしなくちゃね)


弱すぎる獲物に興味が失せて背中を向けたその時



「まだまだぁっ!!!」



不意打ち、だった。

でもそんな事言い訳にはならない。僕はその草食動物の拳をもろに受けて。
更に、スリッパみたいなもので殴られて、よろめいた。




ぐらぐら、する。
まだふらつく頭を抱えながら、湧いてくる抑えきれない殺意をもてあます。


今日はおかしな日だ。

煙草男がきて、山本武がきて、咬み殺したと思ったら
群れていた弱い草食動物が予想もしない攻撃を、この僕にしてくるなんて-----





「ねえ・・・殺して、いい?」



問いかけは、決定事項の宣告だった。
でも、それは思いがけない場所・・・誰もいないはずの、窓からの声で遮られた。



「そこまでだ。やっぱつえーな、お前」


僕は、立って歩く赤ん坊に、知りあいはいない。

でもこの戦いに水をさすなら、何者だろうと敵だ。



「・・・君が何者かは、知らないけど。僕は今、イラついてるんだ」

言うと同時に、トンファーを一切の手加減なしで小さな黒い人影へと叩き込む。



「横になって待っててくれる」


キインッ


僕の一撃は、赤ん坊の手にした、細い十手で見事に止められていた。
久々の手ごたえのある相手に、思わず称賛の言葉が口をついて出た。


「ワオ。・・・すばらしいね、君」


間近で対峙して、初めてそれに、気付いた。
ほんの微かに、目の前の人物から-----


「・・・ねえ。もしかして君、この前、僕の幼馴染を銃で撃ったかい?」


「・・・何故、そう思うんだ?」

「硝煙の匂いがするからね」


僕の翼が、一時的に逃げなければ危なかったほどの相手なんて、この並盛には滅多にいないはずだ。

でも、もし目の前のこの人物が銃など飛び道具で不意打ちをしたなら、全てのことに納得がいく。



「翼にしたのを同じこと、僕にもやってみなよ。・・・咬み殺してあげる」



今僕の目は、喜悦に輝いているだろう。

翼を、攻撃した。
その息の根を止めるまで叩きのめすには、十分すぎる程の理由だ。



「やめておけ。お前は、面白い奴だけどまだオレの敵じゃねえ」


再度打ち下ろしたトンファーも巧みに防御した赤ん坊は
口端を上げて囁いた。


「惚れた相手の名を呼ばれただけで逆上するような、甘ちゃんじゃあな」



-----ドガッ



頭を直撃するする鋭さで当てたはずのトンファーは、真白な学ランの腕に遮られた。
赤ん坊が持つ十手は、男のくせに細くて繊細な指が掴んでいた。
                                  


「・・・双方、動くな」



赤ん坊と僕の間に立ちふさがって、僕らの互いの武器をその手で封じたまま、伏せた眼。
氷みたいに冷静な声で、翼がこの場を制した。





* * * * * *



「何の騒ぎだ、一体。いくら温厚な俺でも、いいかげん、怒るよ?」


遅れてしまって慌てて応接室にきたら、獄寺くんと山本は倒れてのびてるし、沢田くんはパンツ一丁でおろおろしてた。

(どうでもいいけど、一応女の子としては早く服を着てほしい)



そして雲雀とリボーンが、一触即発というかもう暴発しちゃいました、な剣呑な雰囲気で打ち合ってるときたら。
二人の事は沢田くんに任せて、とりあえず間に割って入ったわけだけど。



「翼。どうして」


雲雀、その「すごく不満があります」みたいな目で睨むのはやめようよ。

いつもは私だって、雲雀の喧嘩の間に入ったりしないよ?
怖いから。


「この赤ん坊は、凄く怪しいけど父さんの友達なんだ。
今はそこの沢田くんの家にお世話になってるらしいけど、知り合いだし、放っとけないだろ喧嘩してたら」

「小父さんの・・・ふうん」



雲雀がトンファーを降ろしたから、ちょうどそれが当たった腕をさすった。

流石に痛い。
血はでてなくても、後で痣になるかもしれないな。

すると、もう片方の手の中から十手がすり抜ける感触があった。




「風見。ちょうどいい。お前に聞きたかったんだが」

「なに?」

「たった一人でずっと生き続けることと。・・・自分のために他の誰かを犠牲にすることと。お前なら、どちらを選ぶ?」



どーしてここで二択のクイズがでてくるんだろ。
相変わらず、何を考えてるかわからない変なヒットマンだ。



「よくわかんないけど、誰かを犠牲にするなんて俺は、やだな」

「そうか。・・・じゃあまたな」



そしておもむろにリボーンが懐から取り出したのは
黒くて丸い爆弾だった


ドオンッ


「うわっ」

「翼っ・・!」



咄嗟に、雲雀がかばってくれたおかげで私はどこも怪我をしなかった。
でも当然、爆風にさらされた応接室は煤だらけになった。


そしてこの爆発のどさくさにまぎれて、沢田くん達はリボーンと一緒に逃げたから、この事件は一件落着したんだけど。


マフィアって、なんだか・・・手段を選ばなすぎじゃないか?
正直いって迷惑だ・・!

他の委員と一緒に応接室の掃除をしながら、つくづくリボーンとは関わりたくないと改めて思ったのだった。



そして、その夜。
風呂上がりでいい気分〜と、鼻歌を歌いながらパジャマ姿のまま居間に入ったら


「翼。ここで服、脱いでよ。僕に身体見せて」



先に風呂からあがってソファでくつろいでいた
一欠片の邪心も無い真剣な目をした幼馴染に、とんでもない要求を突きつけられました。



「・・・雲雀。昼間のアレで頭でも打った?病院なら父さんのとこ以外に今すぐ」

「つべこべ言うなら、無理やり剥くよ」

「俺はゆで卵かっ!」



やばい、冗談も通じない。
雲雀はマジだ。

本気の雲雀に、腕力で私が叶うわけなくて、あっさり捕まってしまった。
うー、こういう時、男女差っていうか腕力の差がすごく悔しいぞ!


「ちょ、何すんだっ」

「・・・やっぱり」


パジャマの肩まで、思いっきり袖をまくりあげてくれた雲雀は、溜息をついた。
昼間の、トンファーが当たった場所が、明かりの下にさらされてる。

確かに雲雀の一撃を止めたせいで、そこは結構大きな赤い痣になってた。
痛いかといえば・・そりゃ痛いけど、これから湿布して寝るつもりだったから大したことないのに。



「もうこんな事、しないって約束してよ。僕のトンファーの前に飛び出すなんて馬鹿にも程がある」

「馬鹿ってねえ、雲雀、それはちょっとひどいんじゃないかな?」



ずっと、私がくるのを雲雀は待ってたんだろう。
救急箱が用意してあって、そこから取り出した湿布を慣れた手つきで当てられる。

ひやりとした感触に、思わず腕がはねたけど、がっちりと掴んでる雲雀の手はびくともしない。逃げられない。.



「・・・ひどいのは、君だよ」


ぽつりと呟いた雲雀の声が、いつもと違う気がして思わず目をあげたら、視線が合った。

どうしてだろう。
雲雀と眼があうなんていつものことなのに、どこか・・・怖い。



「君なら、トンファーごと僕を弾き飛ばすこともできたはずだろ。・・・どうしてわざわざ、腕で受け止めたりしたの」

「どうしてって・・・別に考えてやったわけじゃないよ。」


責めるような雲雀の口調に、こちらもちょっとムッとして答える。



「もし気で弾いてたら、雲雀に怪我させたかもしれないし」

咄嗟の事だったし、確かにあれが敵相手だったら容赦なく気で弾いてたところだ。
そしたら壁や床に激突して、当然怪我をするなり気を失うなりするのが普通だろう。

でも、幼馴染の雲雀をそんな目にあわせるなんて、間違ってもしたくない。

だから、あえて腕を犠牲にして止めた。
考えてやったことじゃなくて自然に体が動いてそうなっただけだけど。



「僕が怪我をしなくても、君が怪我したら駄目なんだ」


くるりくるりと
静かに、慎重に、包帯が湿布の上から巻かれいく。



「僕だって・・・痛い」



きゅっと包帯の端を結ばれた。
息がかかるほど近くで、腕をじっと注視してる雲雀の丁寧な指先の動きを見ていて、なんだか胸が、苦しくなった。


私にもうつったんだろうか
ひき始めの風邪みたいに。

・・・雲雀の感じているだろう、痛みが。



「・・じゃ、今度から気をつける」

「うん。そうしてよ。僕も君に当てるなんて失態、もうしないから」





・・・ということで。
一応、応接室での騒動はこれで終わったように思えってたんだけど、実はそうじゃなかった。



次の日、学校に行くと沢田くんが声をかけてきてくれた。


「風見くん、迷惑かけちゃってごめんね。また助けてもらっちゃった」

「いいよ。俺のほうこそ、幼馴染が迷惑かけてほんとごめん。・・・雲雀は、ちょっとというかかなり、喧嘩っぱやくて」


「いや、俺たちこそ急に委員会室だって知らずに入ったんだから。それより、風紀委員だったんだね、風見くん」

「うん、そうなんだ。・・・って・・・え。。」



いっそすがすがしい程に、バレてました。
なお間の悪いことに、沢田くんには悪気は無かったにせよ朝の教室、
俺達以外にもクラスメイトはそこにいたし、いつもの如く沢田くんの後ろにくっついてた獄寺くんが


「なっ、風見、お前・・・あのヒバリって野郎と同じ風紀委員だったのか!」

これまた大きな声で、叫んでくれたものだから。


・・・・しーん・・・


数秒間の恐ろしい程の静寂の後。
湧きおこったクラスメイトのどよめきはもう、勘弁して欲しいと頭をかかえるほど、すさまじいものだったのだった。


(私の平和な中学生活は、今日で終わった・・・)



誰のせいかといえば、雲雀のせい、と言いたいけど。
幼馴染をかばいたい自分としてはこれも結局、自分の責任なんだろうなあ・・と、こっそり涙をふくはめになりました。





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