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そうきじゅつ


僕に、初めて友達ができた。
小さな頃にできた友達は、世間では「幼馴染」っていうらしい。

僕より少し年下で、ちょこちょこよく動くから目を離せないけど
翼と一緒にいても二人なら、別に「群れて」ないからいいと思う。


僕には君以外、いらない。




「・・・何してるの?」



もうこの家にくるのにも慣れた頃
庭にある柿の木の下で、君がうんうん言いながら幹を押していた。


「あ、ひばり!・・ええとね、柿の実をとるんだよ」

「僕には、そうみえないけど」



柿の木といっても、そう大きな木じゃない。
君が実は木登りは得意なのを僕はもう知ってるから


「登ればいいのに」

と言ったら


「これはしゅぎょうなんだ。みててね、ひばり」


こつがいるんだ、と言いながらもう一度、まだまだ小さいその両手を幹に当てて



ボトン


(・・・ワオ)


何をしたのかまだわからないけど、確かに、枝の先にあったオレンジ色の柿の実一個が足元に落ちてきた。



「あの実がほしいなって、ねらいをきめて落とすんだ」

「ねえ。修行って、何の?」



ほくほくと柿の実を抱える翼に、僕は疑問を投げた。


幹を揺らしてるわけじゃない。
ただ手をあててただけだ。おまけに狙って1個の実を落とすなんて



「そうきじゅつっていうんだって」

「何、それ」

「ええと・・・じぶんのきのちからをつかって、しょくりょうをてにいれるほうほう?」

「なんで疑問形なのさ」



庭の水道で、じゃぶじゃぶと柿の実を綺麗に洗った翼は、果物ナイフをもって僕を見上げてねだるように首をかしげる。


「あのね、ひばり」

「剥いてほしいの?」


にぱっと笑って素直に頷く君は、まだ修行より、食い気が先立ってた頃だった。



* * * * *



「そういえば、そんな事もあったねー」



縁側で、寒くなってきたねと言いながら翼は、甘酒を片手に、ふうふういいながら飲んでる。

隣に座ってる僕は、つるりと最後の柿の皮を落とした。
出来上がったそれを皿にのせる。

楊枝をさせば、「いただきます〜」と翼が手をのばしてぱくりと食べる。




「雲雀が料理とかしてるの見たことないけど、頼めばこういうのやってくれたし、器用だったよね」

「君が、刃物が苦手で泣きべそかいてたからみかねて、ね」



子供の頃の翼は、包丁とか、刃物系がかなり苦手だったような記憶がある。
だから頼まれれば、僕も助けてあげることはあったわけだけど。


・・・そこで終わらないのが、さすが僕の幼馴染というか。



いつのまにか、僕の知らないとこで怖い刃物に慣れるために野菜や果物をむく特訓をしてたようで、
小学校にあがる頃にはちゃんと、苦手を克服していたのには正直、驚いた。


その副産物か、目の見えない母親を助けるためか。
たぶん両方だろうけど、翼は男なのに料理や家事が得意分野になってたんだ。



「そういえば、あの頃やってた柿の実落としって、今はやってないね」

「やろうと思えば、できるよ?・・・たぶん、今くらい離れた場所でも。じゃあ、あの枝の先から3番目の奴」



ばん、


銃を打つみたいに、君の指が跳ねて
僕らの視線の前で、数メートル先の地面にぽとりと落ちた、オレンジ色の実が一つ。



「翼。もう子供じゃないんだから、食べ物を粗末にしないでよ」

「え。やらせた本人がそれ言う?」



それは、風見の「力」じゃなくて
君が、長い時間をかけて培ってきた、努力の技。


「雲雀、ひどいって!」と、笑う翼は、実はかなり人間離れしてると思うけど。

サンダルに履きかえて、柿を拾ってきた君に、僕は手をさしだす。




「洗ってくれば、剥いてあげるよ」


ほら。
笑った。


君はちっとも、変わってないね。





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