Faraway
僕はずっと、忘れられなかった。
恋だとか 愛だとか そんな文字に形を為すことはなかったけれど
ふと真っ白なノートに落ちた 紅葉の1片を綺麗だと思ってしまったみたいに
君のことが忘れられなかった
あの夏の日、迷子を連れて歩いていた。
その時僕は、マフィアだとか、殺し屋だとか、非現実的なそれらは物語の中でしか知らない、ただの中学生で。
そして、見知らぬ家を探して恐る恐る歩いていたときに出会った
--------とても綺麗に、笑う君に
後で思い返しても、それは悪夢としか思えなかった。
子供の僕は暴力的な人にも、出来事にもまったく免疫がなくて
初めてボンゴレ十代目と接触したあの日の後、しばらくは眠るたびうなされたものだった。
でもそんな嫌な出来事の中にも、救いがないわけじゃなかった。
唯一、綺麗な思い出が、あったんだ。
もう何年も経ってしまったのに
君の笑顔や、透んでよくとおる声は昨日のことみたいに思い出せる。
なのに僕はあの時の出来事はあまりにショックで、目覚めた時は記憶が所々飛んでいて
君を探したくても、名前しか思い出せなかった。
せめて苗字が思い出せればと、何度、悔しく思っただろう。
そして、僕はずっと時が経ってから
君の「忘れ物」を思い出した その不思議な縁に導かれるように
帰すことができなかった「箱」は その時、僕の運命を変える「匣」になった
* * * * *
「正一。預かりもん。返しにきたんだけど」
研究室に、スパナがふらりと入ってきた。
彼は、数少ない高校時代からの知り合いだった。
同じ技術者同士ということもあり、若干だが個人的な付き合いもある。
「やあ。・・・あれかい?」
「ああ。ウチの手には余る」
ちょうど研究の区切りが良かったから、彼にも椅子をすすめて
僕はミネラルウォーターを口にし、日本ものが好きな彼には緑茶をだした。
「あちっ」
だが、少し熱かったらしい。
口の中でいつもの飴を転がしながら、技術屋らしい繊細な指で湯呑をつまみフウフウ吹いて冷ましはじめた。
「見た目は、ヒスイに似てるんだけど全くの別物だね」
彼がデスクの上に広げたのは、元素分析の分厚いチャートだ。
手にした僕は、X線分析など、あらゆる方向の検査でスパナが解析を試みた内容に目を通した。
「非破壊検査はオールゼロか」
「おまけに、えらい硬い。モスカの装甲も溶かすスーパーレーザーを跳ね返した時はウチも驚いた」
カツン、と硬い音と共に。
デスクの上に置かれ転がったのは、美しい勾玉。
「一体それ、何なんだ?正一。元素分析できない、破壊もできない。オーパーツみたいだ」
首をひねってるスパナにも、僕はただ苦笑するだけだった。
(あの日、消えてしまった君のもの)
(君と僕を繋ぐ、たった一つのもの)
けして壊れない勾玉。
まるで消えない、呪いのようだ。
返したいというのは口実で、ただ会いたくて
ずっと、君を探してたのに見つからなかった。・・・でも
「ある人の忘れものなんだ」
スパナは、怪訝そうに片眉を上げた。
それは技術者ならではの好奇心によるもので、純粋なものだ。
彼の姿に、かつての自分を投影する。
---子供だった、純粋だった頃の僕の。
「それは、本当に、ヒトかい?」
「うん。・・おそらく、ね。でも」
僕の手の中で、その勾玉はずっと、解けない氷のようだった。
そんな長かった日々がようやく、終わる。
「僕にとって、誰よりも綺麗な人だよ」
ボンゴレ殲滅の狼煙と共に。
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