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そして君は手を離す


嫌というほど覚えのある銀色は、幼馴染愛用のトンファーに似ていた。

それを構えてドア(だった物体)を足蹴にして立ってるのは、全身黒のスーツを着た、たぶん20代の男の人。
真っ黒の髪と瞳の、ものすごい美形だ。


・・・


ちょっと待って。
今、この人のことつい雲雀だと思っちゃったし、すごく自然に私のこと、「翼」って呼ばれたんだけど・・


年が合わないにも程がある。
雲雀は少なくとも十代だよ?(年齢不詳だけど!)

それにこの人、すごく背も高い。きっと山本よりあるんじゃないかな。
雲雀は、私より10センチ位?しか違わなかったし・・



「よう、随分荒っぽい訪問の仕方じゃねえか。翼は、今十年バズーカで未来に来たばっかなんだから驚かすなよ」

「・・・そう、それならなおさら、貴方に触れてほしくないな」

「そうか?別にお前の許可は必要ないだろ?」



膨れ上がる殺気に、思わず身をすくめた。
でも、金髪の人は、私の頭の上でその人と気楽に話してる。

会ったばかりだし、この金髪の人が誰なのか本当にわからないけど、ひょっとして相当、強い人?

と、金髪の人が鞭をとりだして構えた。
・・・えーと・・・駄目だ、あまり関わってはいけない気がする、すごくする!


まじまじと、私を保護してくれた金髪の人と乱入者の人を見比べてたら、
その人は、抱きしめられたままの私に、鋭い目つきをさらにきつくして睨みつけてきて



ガキッ


何が起こったか、わからなかった。

でも一瞬後には、私を抱きとめてた腕は、さっき見た黒スーツの人のそれに代わっていた。
同時に、ドアだった残骸を飛び越して部屋の外へ。


「いくよ、翼」

「なっ・・・!」


すごく軽々といった感じで、黒スーツの人は私を抱えて走るけど、
私は訳もわからないから、落とされないように捉まってるのが精いっぱいだ。

残像みたいに、髭のおじさんの慌てた顔と、金髪の人の姿が視界の隅を横切ってそして


「待て、恭弥!勝手は許さないぞ!オレは翼の」


ドオンッ

彼らの姿が壁の向こうに消えると同時に、背後で爆音。


そして私と黒スーツの人は、窓の外へと飛び降りていた。
真っ黒の猫みたいに、黒スーツの人は私を抱えたまま芝生の上に、危なげなく着地する。



「・・・ねえ、翼」

耳元で囁かれる声は、やっぱり雲雀に似てる。
低音で少しかすれるような、幼馴染の声。

でもどこか、ぞくりと背中が泡立つような気持ちになるのは、何と言うか・・色気みたいなものが、ある、ような。



「雲雀・・なの?」


勇気をだして問いかけると、私を見つめていた人の目元が、嬉しそうに緩んだ。
嘘みたいだけど、やっぱり10年後の雲雀、なんだ。


「うわあ、大きくなったねえ・・・」


普通小さい子とかと久々に会った時の感想だけど、思わず素でそう思ってしまった。
それに昔から雲雀は男にしては整った顔立ちだったけど、そのまま大人になったとはさらに驚いた。

男っぽくごつくなるとか、髭が生えるとかは無いんだろうか。
・・・まあ雲雀はお父さんも美形だから納得かも。遺伝子の力って凄いなあ。


でも、成長した幼馴染の姿に、しみじみしてた私の感傷は、雲雀のとんでもない行為でぶった切られた。



「10年前といえば・・・君が13の時の夏だよね?」

「う、うん。・・・そうだけど、えっ」


雲雀?

そう言いかけて果たせなかった。



近づいてきた幼馴染の顔にも、危機感は無かった。だって、雲雀だし。

だから、私の唇は本当に、あっさりと雲雀に奪われてしまってた。
ちゅ、と軽い音をたてて離れた顔は、見憶えのある意地悪な笑みを浮かべていて


「君の初めては、これで僕だ」


それが、耳に残った最後の言葉だった。



* * * * *




吹きあがる、白煙。
そして

ああ。
浮かび上がる輪郭は、10年前より少し成長してるけど、僕が握ったままのこの手の柔らかさは変わらない。


まだ幼さを残した君は消えて、「今」の翼が僕を、まっすぐに見つめていた。
少し驚いたように目を見開いて僕をその瞳に映してた。

でもすぐに、強い声が僕を撃つ。




「・・・手、離して」

「嫌だ」

「私は、雲雀のものじゃ、ないんだよ」



そして君は僕の手を、離した。
繋がった温もりを失って、僕は冷えた空を掴む。



「・・・昔の君、可愛かったよ。懐かしかった」

「雲雀は、昔も今も可愛くない!どーして、いつも私が困ることばっか狙ったみたいにするの!?」



そうだね。
愚かだった、子供だった、昔の自分のことも、思い出した。

過ぎた過去はもう巻きもどせないから、せめて報いようとつい手がでたけれど
今の僕は、今の君を、欲しいと思っているから。




「ねえ。まさか、僕が君の顔を見るためだけに、ここに来たとでも思ってるの?」


喉の奥が、くっと鳴った。僕が前に進めば、翼は逃げるように後退する。
でも壁に突き当たって、慌てたように振り返った。



抱きしめたら、少しの抵抗をみせた。
でも、すぐ大人しくなる。

うん、ちゃんと学習してるみたいだね。僕が本気になったら、君は逆らえない。
僕は、獲物を逃がす気は無いよ。


もう・・二度と。



「さっきは可愛かったけど、今の翼は、綺麗だね。・・・でもそのドレス、君の趣味?」

「え。これ、は・・・ディーノさんからもらったんだけど?」

「・・・へえ。じゃあ、すぐ脱ぎなよ」

「昼間っから変態行為を強要するなっ!」




この心を奪ったのは、誰だ?
何もかも、思い通りにはならなくて、それでも


「僕は、責任をとってもらいに来たんだよ。・・・翼」


だから 尽きるほど君を奪わせて。





* * * * *




「ちゃおっス、風見」

「・・・・」

「おい。どーしたんだ、10年後はそんなに仰天たまげた世界だったか?」



場所:公園の木の上

目の前の枝には、私同様木の上に器用に座ってるアロハ姿の赤ん坊の姿がある。



たっぷり10分程も呆然自失していた私がようやく口を開けたのは、リボーンが鼻ちょうちんを出し始めた頃だ。

なんか腹立つ。
どうせ今回のことだって、この怪しいヒットマンに少なからず関係してるに違いない。



「あの、さ。・・・10年バズーカとか、なに、それ。ひょっとしてあの牛柄の子が持ってた奴のこと?」

「お、ようやく喋ったな。そうだぞ。
あいつはランボって奴で、ボヴィーノって弱小マフィアの、ヒットマンだ。
オレの命を狙ってるんだが、オレから見ればただのうざいガキだ」


やっぱり、お前が原因か!


「あいつのバズーカは、撃った人間を10年後の自分と、5分間だけ入れ替える。
さっきまで10年後のお前もここにいたんだぞ」

言い終えたリボーンはにわかにニヤリと笑った。



「えらい美人だったぞ、お前。・・・髪も長かったし、ドレスなんぞ着て、な」

「げ・・・!」



木の上で、ずっこけそうになった。
女ってバレたっ・・・!


そうか、10年後の私は、そういう事情だったからとっさに木の上なんかに雲隠れしたんだ。
・・この怪しいヒットマンをまくことはできなかったんだろうけど。

そうすると、入江くんとかにはバレなかったのかな・・・



「ああ、お前の姿は、オレ以外は見てないはずだぞ。
一緒にいた眼鏡の野郎はツナとビアンキの騒動に巻き込まれてすぐ失神したしな。
10年後のお前もえらい素早くてすぐにここに逃げ込んだ。風見の血は伊達じゃねえな」


「どうも・・・って、礼を言うようなことじゃないか。ビアンキってあの綺麗なお姉さんだよね?」

「そうだぞ。オレの4番目の愛人だ」

「うわあ」



不潔。

そういう目で見ても、目の前のヒットマンはびくともしない。ある意味大物だ。



「で、10年後のお前、どーしてたんだ?」

「え。でも未来の私、ここに来たんでしょ。何も聞かなかった?」

「口が堅くてな。・・・まあ過去の人間に未来の情報を与えないってのは賢明とも言える」




そうだ、10年後の私はどうしてかイタリアにいて・・・性別も、女の子として扱われてた感じだった。


「イタリアのどっかのお屋敷にいたよ。
金髪の人と、大勢の黒スーツのおじさん達がその人のことボスって呼んでた。
金髪の人は、鞭持ってる変わった人でね。それに雲雀も」


言った瞬間、思い出してしまった。

触れた感触。
少し冷たくて、でも硬くはない唇の・・・



(うっわ・・・どーして私、どきどきしてるんだろ?)

だって、雲雀だよ?いっつもトンファー振り回してる、昔から一緒にいた幼馴染だよ?

たかが、キスくらい、で・・・
そう、びっくりしたけど。だって想像もしなかったんだ、雲雀がそういうことするなんて。


おまけに「君の初めてはこれで僕だ」だって・・・

(そうだよ、今日のがファーストキスだよ!悪いか!っていうか、どうしてそれを10年後の雲雀が知ってるんだ)
もう、色々と混乱してしまう、理由も原因も、皆目見当がつかない。



耳まで真赤に熱くなってる気がして、恥ずかしいから両耳を手で掴んで目をそらしてたら、
リボーンはいたって冷静に何か考え込んでいるようだった。




「その金髪の奴、お前の何だった?」

「さあ。会ったことない人だし。ただ割と親しそうだったかな。
私のこと、屋敷の人がお嬢、とか呼んでたから公然と女扱いされて守られてるような感じだった」

「・・・」




沈黙。

え。これ、黙っちゃうようなこと?



首をかしげてたら、しばらくしてリボーンはさっさと腰をあげて背を向けてしまった。


「そうか。じゃあ、オレは用事ができたから退散するぜ。・・・性別のことは黙っててやるから感謝しろよ」

見事に、葉ずれの音さえたてずに姿を消した赤ん坊を見送って。
ため息をついた。



(買い物もどっかに落してきちゃったし、もう一度買ってくるしかないなあ・・・)

なんかもう、いろいろびっくりする事が多すぎて疲れた。
そう。この時の私はものすごく、疲れていたから



首からさげたネックレスの、母さんの形見の勾玉が金具ごと
外れて消えてしまってることに気づいたのは、自分の部屋で着替えた時だった。





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あきゅろす。
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