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眼鏡少年×天パ×バズーカ砲?



「あの・・・この辺で、沢田さんという家はご存じないですか?」




真夏の太陽が照りつける中。

買い物帰りの私をおそるおそる呼び止めたのは、もじゃもじゃ頭の小さな子を背負って、大きな荷物を抱えた眼鏡の少年だった。


沢田っていうと・・沢田くんの家かな?ひょっとして。
この前、山本くんや獄寺くんと一緒に夏休みの宿題をするために、沢田くんちに集まったっけ。

でもお昼すぎに、雲雀から「風紀の見回りがあるから戻ってきてよ」なんて呼び出しがあったから、途中で帰ったんだよね。


後できいたら、その後沢田くんのガールフレンドのハルちゃんって女の子が参加したりして賑やかだったらしい。
うーん、ちょっと会いたかったかも。
(沢田くんって奥手っぽいのにちゃんとそういう子がいたんだなあ)



「うん、場所はわかるよ。近くだし。案内しようか?」

「はい!ありがとうございます」


礼儀正しい子だなあ。ちょっと気が弱そうだけど。
多分私と同じ年くらいだ。ちょっと息をきらせながら歩いてるその子の少し先を歩きながら、振り返る。

「荷物、持とうか?」

私の方は、シャーペンの芯とか小物の買い物だけだったから、手ぶらに近くて余裕がある。
でも眼鏡少年(あ、今の私もそう見えるんだろうな)は、律儀なのかちょっと笑って断った。


「いえ、もうじきだったら大丈夫です。預かりものなので」

「背中の子、弟さん?」


なんか変わった牛柄のツナギ着てる。4〜5歳だろうか。
何気なくきいたら、彼は、空を見上げてどこか遠い目をした。


「・・・いいえ。突然、うちの壁をぶち破って飛び込んできた迷子です・・」


どこの紛争地帯だ、ソレ。

なんだかんだで、お互いに自己紹介をしたり(彼は入江君というらしい)
大変だったねーとか話をしながら歩きつづけて、沢田くんの家に到着した。



* * * * *



「風見翼、っていうんだ」


偶然、道案内をしてくれることになった、その子は屈託なく笑った。
白のジーンズに空色のTシャツ姿で、背丈も僕とそんなに変わらない翼さんは、すごく綺麗な女の子だ。


(年は僕と、同じくらいかな)

でも同じ中学じゃないと思う。
こんな子、見たことない。

母さんや姉さんには、お荷物やこの子を押し付けられちゃったけど、
そのおかげで、翼さんと会えたなら、僕はすごく4ラッキーだ。


たわいもない事を話してるうちに、あっという間に「沢田」って表札の家の前に着いてしまったから僕は少なからずがっかりした。

でも僕が逡巡してるうちに


「・・・ここって、リゾート?」

「翼さん!聞こえるよっ!」


庭にいた、水着(!)のお姉さんを見て、翼さんがストレートな感想をぼそりと呟くからあわてて止めた。
でも時すでに遅し、水着のお姉さんは僕達に「何か用?」と声をかけてきて、すぐにカッと眼を見開いて鬼みたいな形相になった。


こ、怖いよ〜!

りぼーんさんの家って、ヤクザなの!?(普通の家に見えるのに!)


その時、ずっと下の方から子供の声がきこえた。


「ちゃおっス」

あ、赤ちゃん〜!?

赤ちゃんがアロハ着てるよ、いやそれだけなら親の趣味だから何でもいいよ。
でもこの赤ちゃん、ビール片手にぐびぐび飲んでるよ!?幻覚?白昼夢・・?

僕があわあわと混乱してると、赤ちゃんが隣の翼さんに視線を向けた。



「なんだ、風見じゃねえか。どうした、見慣れない奴と一緒だな」
「うわ。リボーン、いたんだ」



え、翼さん、この赤ちゃんと知り合い?

嫌そうに今にも帰りたそうにしてる。
親切でまともな翼さんが嫌うんだから、この家って非常識で危険な場所なんだ・・・!


僕はさっさとリボーンさんに預かってた箱を渡して、そして背中におんぶしてたランボ君を降ろして立ち去ろうとした。
面倒事は嫌だし、それに翼さんが嫌がってる場所だったら、僕だって一緒に早く帰ってしまいたい。


・・・と思ってたのに。


ガキン
ぐびゃっ



「あ、あの、翼さん・・・この家って・・・」

「うーんと、リボーンって殺し屋なんだ。だから堅気なら、ここに近寄らない方がいいかも。
(沢田くんはいたって普通の人なのにね)」


突然始まった、ランボ君とリボーンさんの一方的ともいえる大ゲンカに呆然としてると、
一緒に壁際へ逃げてきた翼さんが疲れたような声で言った。


(ど、どこかに、逃げなきゃ!荷物どころじゃないよ!)



母さんにかけた携帯は繋がったままだけど、頭は混乱してた。

ただ、「翼さんを守らなきゃ!」と思って僕は彼女の手を握ろうとして、
そこで手にしてた牛柄の袋が空っぽになってることに気がついた。


・・・・手りゅう弾、入ってた気がするんだけど、これ。


嫌な予感がした。
翼さんと一緒に、見上げた木の上には、仁王立ちしてるランボ君の姿が。

ちょ、それ子供のおもちゃじゃ、なかったのー!?



「お前なんかドガンドガン、土管だ〜!!」

「・・べたなギャグだね」

「何言ってるんだよ、翼さん、逃げよう!」


 ドカーン


手りゅう弾を跳ね返したリボーンさんが(やっぱりヤクザなんだ!)
物凄い爆音が響いて、家の中から騒ぎをきいた人が飛び出してきて、僕はその人なら助けてくれると思って駆け寄ろうとした。

そうしたら

大泣きしてるランボ君が、頭のもじゃもじゃから
何かとり・・・だし・・・て・・・


バズーカ砲を取り出して



もう頭は真っ白だった。

でも呆然としてた僕の隣から翼さんがすりぬけて「危ない!」と
ランボ君に駆け寄ろうとしたから、反射的に手を伸ばしたんだ。


・・・ブチッと何かちぎれるような手ごたえがした。

ふわふわの翼さんの髪が僕の目の前から離れていって、どうしても届かなくて絶望的な気持ちに、なって。

----手の中に残ったのは、小さくて固い感触の何かだけ。



一瞬後、物凄い爆音と真っ白な煙に、何も見えなくなっていた。



* * * * *



入江君が連れてた迷子が、武器みたいなのを取り出して自分に撃とうとしてたから、
止めようとしただけなんだけど。


・・・ええと・・・・


「ここ、どこ?」


私は、沢田くんの家の前にいたはずなんだけど。
目の前の白煙が消えて、暗いトンネルをくぐったような浮遊感の後、
はたと気づいたら、いつのまにか、どう見ても洋風な館の一室にいた。

おまけにすごくゴージャスというか・・・普通の家じゃない。

天井も高いしクリスタルのシャンデリアが下がってる。
壁の装飾とか額にはいってる高そうな絵とか、全部「お屋敷」というのがぴったりくる印象だ。
大きな窓の外には広大な緑の庭も、見える。


それに。
なんとなく・・力が発現してから、空気というか肌でわかる感触が鋭くなったような気がするんだ。

ここ、日本じゃないんじゃない?



「・・・やれやれ、10年バズーカか?災難だったな、翼」


ええと。
・・・この人、誰だろ?


何故か私は、テーブルを挟んで見知らぬ男の人と、差し向かいで座っていた。
マドレーヌとかクッキーとか美味しそうなお菓子と一緒に、二人分の紅茶が淹れたてらしく湯気をたててる。

あ、フォションのアップルティーだ。
私も好きだから、家には常備してる。


・・・ん?

なんかこのお菓子、私が作るのとよく似てる。いやそんな馬鹿な。
でも形とか、型抜きの仕方とか・・・見覚えあるというか。なんで?


「あの、恐れ入りますが。・・・ここはどこでしょうか?」

「ああ、そうか。そりゃ、10年前のお前じゃわからないよな。ここはイタリアだぜ?」



10年前って何の事!?


「イタリア・・!?」

どう反応していいんだろう、目の前の男の人は、ふざけてる風じゃない。
いや、なんか面白そうにこっちを見てるけど、優しそうだから意地悪してるわけじゃないんだろう。


「あの、貴方は一体」

とりあえず聞きたいことは聞いておこう、と口を再度ひらいた私の言葉は、
バンと大きな音をたてて開かれたドアの音にかきけされた。

駆け込んできたのは、黒スーツにごつい体格の外国の男の人だ。
ここはイタリアだってことは・・・イタリア人の人?でも



「ボス!正門を突破されました!負傷者多数、防ぎきれません、ご指示をっ」

切羽詰まった声の、それ、どう聞いても日本語なんですが。
(そういえば、この人も最初から、日本語で喋ってたような・・・)


「仕方ねえなあ。・・・ったく、オレがでるしかないのか」

やれやれと立ち上がったその人は「いったん引かせろ」とか指示をだしてる。


いやそれより、ボスって一体。
なんかの組織ですか?ココ。

それによく見たら、入ってきた部下らしい人マシンガン持ってた・・・し。



(・・・こんなやばそうなとこで、まったり茶を頂いてる場合じゃないんじゃないかな)


事情はともかく、逃げた方がいいかなと窓の方をみる。
・・・高そうだけど、木もあるし大丈夫かなあ。

そうしたら今度は、髭をはやした渋いおじさんがまた一人、駆け込んできた。部屋に入るとドアにガチャリと内鍵をかける。


え、籠城?
っていうか、やっぱり窓から逃げないとだめですか私?


「お譲、とりあえずここは抑えますから、逃げて下さい」

髭のおじさんは、銃をかまえて私達を振りかえった。
いや、その銃しまってください。法律はどこにいった、ここは無法地帯か。


・・・え。
私は、自分を指さす。お譲って、私?

(どーしてそうなる??だって私、男装したままだよ、ここじゃ私、お嬢様扱いなの!?)



「説得には応じないか」

「無茶いわんで下さい。近づいた者は全員、滅多打ちです。
あの坊主が守護者になる前から、一度でも俺達やボスの言うことを素直に聞いたためしがありますか?」

「そういえば、ねえなあ。ハハハ」



呑気な会話の合間にも、閉じたドアの向こうからは阿鼻叫喚が聞こえてくる。
ドカとかバキッとかドッカーンとか。


もう、どこか感覚が麻痺しちゃって、これらすべてが夢なんじゃないかな・・と私は、逃避を開始していた。

だって、10年後って何。
私を女の子扱いするこの人達って何。どうしてイタリアなんかにいるんだろう・・・ありえないってば!


謎の爆音の振動に、この大きな部屋もかすかに振動している。
そして。


前触れもなく、ドアの真ん中が粉砕されて、こちら側へと吹っ飛んできた。
ボスと言われた男の人が、とっさに私を腕の中に抱き込んでかばってくれたけど、木の破片や粉塵が一気に部屋に充満した。




「ちょっと。僕の翼に触らないでくれる。・・・咬み殺すよ」




微妙な違和感。
でもそれは

覚えのある、・・というかありすぎる、その言い回し、その声音を、私が聞き違うはずも、無かった。


(雲雀!?)





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