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ひばりとあったひ・きみとあったひ


−ひばりとあったひ−





今考えると、ああ私の体質のせいだったんだろうなと思うんだけど
私が小さかった頃、外で遊ばないことが多かった。

両親が止めるわけじゃなかったけど、やはり心配されてる空気というのはわかるもので。

その頃は家での一人遊びが中心で、父さんがたまの休みに連れていってくれるのをひそかに心待ちにする毎日だった。




そんなある日、家にお客さんがきた。



「翼。こちらは、父さんの友達の、雲雀さんだよ」



玄関に立っていたのは、父さんと全然雰囲気の違う、クールですごく端正なかっこいい男の人と、
その人の隣にいる、よく似た雰囲気の男の子。


真っ黒な髪と瞳。
野生の猫みたいにみえたその子は、私より少し年上かもしれなくて
興味をひかれて、近づいた



「こんにちは!」


おじぎをして挨拶すると、かっこいい男の人が「こんにちは」と返してくれた。


男の子は、何も反応しない。

だから食べ物で釣ろうとした。(今も昔も単純な私・・)



「あっちにすいかあるの、たべる?」



夏の盛りだった。
ちょうど、母さんが切ってくれた西瓜を、縁側で食べてたところだったから。

日差しはちょっと暑いけど、ぶたさん蚊取り線香もたいてるから、虫はこないはずだ。


男の子はじーっと見上げてる私に「ひばりきょうや」と無愛想に、名前だけ教えてくれた。


えーと
・・・すいかは?


ぶすっとしてる男の子を見ながら、考え込んで
(ひばりって、何かきいたことあるよーな?・・とりさんだっけ)

この「ひばり」という響きが、なんだかとても気に入って嬉しくて、うきうきした。


ぺこりと頭を下げて、私も名乗った。
そして迷わずに雲雀の手をとって


「じゃあ、ひばり、あっちいこ!」

「・・・君、なんなの」



珍しく、初対面の子相手に物おじせずに手をひっぱる私に
今考えるとどうしてだろう----雲雀も、さして抵抗もせずひっぱられて

それが、その後ずっと一緒に過ごすことになる幼馴染の雲雀と
初めてであった日だった。









−きみとあったひ−



それは珍しいものを、見た。

滅多なことでは感情を顕わにしない、父さんが、自分から他人の家を訪問した。
しかも、そこで親しげに話している。


傍目には、それでも無愛想極まりない表情に、見えただろうけど。
子供の僕にも、父さんがそこの家の主にある主の敬意や友情をもっているのは感じとれた。


その家には、僕より年下の男の子がいた。
きょとんとぼくたちを見上げていて、家の主の小父さんはその子に、父さんを「友達だよ」と紹介してて


あ、また父さんは嬉しそうだ。
「こんにちは」なんてその小さい子に普通っぽく挨拶してるけど。



・・・今日はほんとうに、珍しい、日だ。




その子は、「あっちにすいかあるの、たべる?」と無邪気にきいてきた。

僕は自分の名前を、名乗っただけ。


(・・・だって、名前も知らない子に付き合う義理なんかないし)


思えば、この頃すでに僕は群れるのが嫌いで、同じ年頃の友人は皆無だった。
独りでいる方が好きだし、楽だったのだ。



でも、本当は見惚れてた。
その子の瞳は、見たこともない不思議な深さで、まっすぐに心に入ってくるようで。


なんとなく
僕は、もうこの子のことを、忘れられないような気がしてた。



その子は、「風見翼です!」と素直に自分の名前を教えてくれた。

その名前もまた、僕の心にまっすぐ入ってきて、どこか特別な場所にすっぽりと落ち着いた。


それが、僕と君との、出会いだった。







手が、触れて。

「じゃあ、ひばり、あっちいこ!」

君の声が僕を呼んだ。
僕を見上げて、笑った。



縁側で。
大きな皿にのった真赤なスイカ。

今日初めて会った子と二人で、並んで座ってるなんてちょっと変な気分だった。
・・・・別に、嫌じゃないけど。



「すいか、おいしい?」

「・・まあまあだね」


嘘。
すごく美味しい。




縁側から見渡せる日本風の落ち着いた小さな庭は、白やピンクの芙蓉の花がひっそりと咲いている。
街中なのに、ここはとても静かだった。

今は夏だし、まだ日暮れ前で。
本当ならすごく暑いはずなのに、どこからか、涼しい風が吹いてきて気持ちがいい。




「なつはね、すいか、いっぱいたべるの」
「ふうん」

「そしたらおとうさんに、おまえはクワガタかっていわれたの」
「・・へえ」

「クワガタって、なに?」
「公園とかにいる、虫だよ」

「・・・そっかあ」



隣でスイカにかぶりついてる翼を何気なく見ると、
頬に、スイカの種が一つくっついてたから、手をのばして取ってやった。


「・・あれ?」
「そそっかしいね。きをつけなよ」

「うん。ありがと、ひばり」


のんびりなのか、マイペースなのかよくわからない子だ。
翼は、初対面にしては人見知りなくよくしゃべるけど、不思議と煩いとは思わなかった。



「そとはね、ひとりだとあぶないんだ。しんぱいかけちゃうから、あんまりいかない」
「ふうん」


「クワガタって、どこにいるの?」
「木の上だろうね。朝じゃないと見つからないんじゃない」


「そっか・・・でもね、まだあさはひとりでおきられないの」
「どうしてさ」


「どうしてだろ?おかあさんやおとうさんにふまれるまで、ねてるの」
「・・ばかじゃないの、君」




この場合、踏まれるまで起きないこの子の寝汚さを指摘するべきか
わが子を踏んで起こす親の理不尽を指摘するべきか迷ったけど「ばか」の一言でくくって締めた。

でも、外には一人じゃでられないのは、小さい子くらいならわりと普通かもしれない。
(まあ僕も今は小さい子のうちだけど、かまわず外にでてる。親も止めないし)



それに父から事前に、言われてたことがある。

「これからお邪魔する家の奥さんは、目が不自由だから、失礼のないように」と。
・・・ああ、だからか。




「・・じゃあ、僕が翼と一緒にいけばすむはなしだよね」
「う、うん。そう・・かな?あれ?」

「あれ?じゃないよ。そういう時は、お礼を言うのがふつうだよ。・・翼」
「そっか。・・ありがとう!ひばり!」



朝になったら、クワガタを探しにいこう。

-------それが君と交わした、最初の約束。





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