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怪獣コンビ誕生!
淡い桜色の絨毯、真新しい制服の学生達の賑やかな声。
時おり吹く風が、名残惜しそうに残りの花弁を彼等の頭上にふりまいていく。


「あー・・気持ちいい」

なんとなく、独り言がもれる。
風が、気持ちいい。暖かすぎない、爽やかな風。

上をむいたせいでずれた眼鏡をかけなおして空を見上げれば、ちょっと日差しが眩しくて目を細めたけど、気分は上々だった。

てくてくと気分良く歩いていくと、並木道の向こうに見えてきた「並盛中学校」の校舎と、校門。

途端に、若干テンションが下がるのを感じた。

いや
別に嫌いじゃないよ、並中。嫌いじゃなかったさ、並中。

・・・ちょっとムカつく事が、あっただけで、ねー・・・・
遠い目で、空を仰げば、白くて淡い、綺麗すぎる桜の色が、心に染みた。
・・風見翼、中学入学はじめての登校日はちょっとブルーな気分ではじまった。





------振り返ること、約1ヶ月半前。

焼きシャケと大根の一夜漬け、ネギと豆腐の熱い味噌汁に生卵。

ちょっと早めに起きて冷えた部屋をエアコンで暖めつつ用意した朝ご飯を、テレビのお天気お姉さんの声
をききながら食べていたら、ピロリンと軽い音色がシャツの胸から響いた。あ、メール。

今日は、俺の私立中学入試当日だ。
でも、特に一緒に行こうと約束してる友達がいるわけでもない。

着信ランプの色から、誰からはすぐ予想はついたから、特に慌てずに折りたたまれてたケータイを
パコンと開けてメールを開いて、ちょっとびっくりした。

 from:雲雀恭弥
 Sub:入院したからすぐ見舞いにきて


ええと、本文は「並盛中央病院」って・・それだけ?
あのなあ雲雀、メールできる余裕があるなら、理由も書こうよ。
喧嘩相手を入院させたことは星の数でも、自分が入院なんてしたことないね、が当然の最強幼馴染みの変調に、俺は思わず窓をあけて外の天気を確かめてた。

いや、今朝のニュースでは「寒いですが快晴の一日でしょう」って予報だったけど、突然大吹雪になっててもおかしくないなって。

・・・雲雀。
いったい、どこの怪獣と喧嘩したんだ?? 
(とっても失礼)




* * * * *




その日の午後。病院へ行くと、ベットで退屈そうに本を読んでた雲雀は俺の顔をみた途端すごくむくれて「遅いよ」となじってきた。


「仕方ないだろ、これでも試験会場から、まっすぐ来たんだし」

「・・・君、僕からのメールちゃんと読んだ?僕は、『まっすぐ』じゃなくて『すぐ』来いって、そう書いたんだよ。斜めに読んだんじゃないの?」


ベットの脇の椅子に腰かけて一息、それでも「怪我、大丈夫?」ときくとすぐに、「平気」とそっけない
返事がかえる。

雲雀の左手は、簡単に包帯巻いてて治療済みみたいだし、普通に喋ってるから打ちどころが悪いわけ
でも無いんだろう。

うーん・・・
一体何のための入院なんだ。
謎は残る。
謎といえば、この病院の人達の態度も大概変だった。

朝、心配になって病院へ電話で容態をきくと「け、怪我です・・あ、腕の、」と要領を得ないし、

怪我で入院なんてどんだけ重傷なのかと心配になって聞いてるのに「あの、ご、ご本人におききになってください!」と電話を切られた。

なんかそれが不審で、結局受験は予定通り行ってから、見舞いにきたんだけど。
さっきこの病室に案内してもらった看護士さんも、ろ
くに俺の質問に答えず部屋の前まで案内すると脱兎のごとく逃げられた。


雲雀は、どう見ても不機嫌そうだ。「遅すぎだよ」と、まだ愚痴っている。

「ねえ。僕と入試と、どっちが大事なの」
「入試」

口をヘの字に曲げて雲雀がきくから、なんか倦怠期でピンチ状態の彼女みたいなセリフだと思いつつ、即答した。

その瞬間、無言でもの凄く睨まれた。

首をかしげたら、雲雀は起こしていた上半身を倒して毛布にもぐりこむ。うーん、怒らせたかな。

「やっぱ、怪我のせいで熱でもでたのか?」

おでこに手を当てようとしたら、ぷいと首をふって避けられ、そのまま背中をむけて頭ごと毛布に隠れてしまった。

おーい、雲雀〜と、俺が片手でゆすってもうんともスンとも答えない。
ちょっと見は、白い蓑虫みたいで面白い。

けど顔もみせない態度は可愛くないなあと思って脇の下(と思われる場所)をくすぐってやったら、シーツの向こうからすごい速さでトンファーが横殴りにしてきた。

「あっぶな!っと・・」

ひょいと避ければ、また魔法のようにトンファーは毛布の下に消えていた。

いつも思うけど、それ、どこに隠してるんだ雲雀。
幼馴染みの俺からみても、雲雀七不思議の一つだ。

でも、ああ、これは完璧に拗ねさせちゃったなあ。
やっぱり雲雀は子供っぽいとこがある・・と、俺はため息をついた。

絶対、俺よりは年上のはずなんだけど。
雲雀は確かもう、並盛中学ってとこに通ってるはずだから。


「・・・翼、なんで僕に無断で、中学受験したの」

「え?(なんで俺の受験に、雲雀の許可がいるんだよ)チャレンジはしてみたいと思わない?あそこ一番の進学校だし」


親が科学者でそっち系の本が家に溢れてるせいか、俺がもともと何でも読む本の虫のせいか、理数系の勉強は苦痛じゃない。まあ普段は漫画よんだりゲームしたりの方が好きだけど、受験しようと思ってからは結構真面目に勉強していた。

俺が受験した私立中学は、一部の学科が優れていれば優遇して入学させてくれるとこだから、
普通の学校よりは俺にむいてるかなあといわば何となくな気持ちで、気楽に受験したんだけど。

・・・というか、今は勉強、していたかった。

「受験」のために「勉強しなくちゃ」という気持ちで机に向かってたここしばらくは、色々なことを考えなくて、すんだ。


いつのまにか思考停止していたんだろうか。
気付くと、雲雀はくるまっていた毛布から頭をだして、こちらを睨んでいた。


「スリルが必要なら、翼が並中にくれば毎日味わえるよ」

「いやいや、(スリルって何で)受験がすんだら俺はのんびりするよ?読みたい本、いっぱいあるし。それに、家事やらないといけないから」


スリルなら、さっきトンファーが飛んできたときに味わったばかりだ。

雲雀の武器に殴られたことは一度も無いけど、当たったら痛いにきまってるから、あんなスリルがしょっちゅうあるような日常はごめんこうむりたい。

雲雀恭弥の幼馴染みってポジション自体がスリリングだから、それ以上の刺激はいらないと心から言い切れる。


「中学生活はのんびり過ごすよ」
「ふうん」

気のあるような無いような返事と、横目の視線が返ってきた。

枕元の果物籠から真っ赤なリンゴを1個、ぽいと手渡してくる。
食べたいという雄弁な視線に苦笑したけど、目についた果物ナイフで剥いていった。

我ながら上出来なウサギ型にして並べていくと、ずいと目の前に伸びてきた細いけどしっかりした指先が、さっそくウサギの耳部分をひょいとつまんだ。

もしもしと無言で頬張って食べる様子は相変わらず無愛想だが、機嫌はやや治ったようだ。



「のんびりするなら、それこそ進学校になんて行かなくてもいいじゃない」

「ああ・・そりゃ、そうだ。だから言ったじゃないか、チャレンジだったって。勉強、珍しく頑張ったから力試しに受けたかったんだ」

「似合わないよ。翼にガリ勉なんて」


指についたリンゴの汁を、ぺろりと舐めとる。雲雀は結構顔が整ってるから、そんな仕草も様になる。

ムッとした気分を紛らわせたくて、俺もリンゴを一匹頬張った。


「ひーばーりー・・・ほんとの事とはいえ、はっきり言うな」

「僕がいるんだから、並中にきなよ。翼」


(「僕がいるんだから」って・・別に雲雀とは家も近くて、しょっちゅう会えるんだから俺的には、そこはこだわりポイントじゃないんだけど)

今までだって、電話とかで声をかけたら雲雀は遊びにくるし、呼ばなくてもしょっちゅう押し掛けてくる。

でもここで反論したら、またこの友人が拗ねるのは確実で。


「うん。じゃあ考えておくよ」


雲雀は元気そうとはいえ、(一応)入院してるんだし、ちゃんと養生してほしいから、それからたわいもない話しを少しして、早めに家路についた。


病院をでて、家に戻るともう夕方だった。

帰る途中で寄ったスーパーの袋をさげながら、鍵を開けて「ただいまー」と言いながら家に入る。

これって防犯上、大切なことらしい。

一人暮らしとか家族が不在の時も、泥棒ってのはどこで見てるかわからないから、ちゃんと挨拶して家を出入りすることで、隙をみせずに済むんだとか。

それを聞いてから、俺は欠かさず挨拶を励行している。

牛乳とかペットボトルの入った結構重たいビニール袋をダイニングのテーブルに置くと、しんと静まりかえった家の中が、なんだか酷く寂しかった。

(もうちょっと、雲雀のとこでゆっくりしてても良かったかなあ)


最近、受験勉強に集中してたから、あまり雑念もなく、寂しいと思うことも時々だった。

----でももう、「受験」という言い訳もない。緊張の糸も切れてしまった。

たとえ可愛くない言葉を吐くことが多い幼馴染みでも、やはり言葉をかわして慰められていたのは、見舞いにいった自分の方だったのだと今さらながら気付いた。

父さんが家に帰らなくなって、もう結構経つ。

研究所に泊まりこんでるのか、どっかホテルをとってるのかは知らない。携帯に時々メールがくるし、電話でも「元気か」「大丈夫か」と短い安否確認は入れてくれるけど、ずっと帰ってこない。


父さんの友達だっていう弁護士さんからも連絡があるから、多分これからも生活に支障は無い。

でもいつ父さんが帰るか全くわからないから、がらんとした一軒家を中坊になりたての俺は一人で切り盛りしていくことになるだろう。


ぼうっと、買ってきたものを冷蔵庫にしまいながら、これから先のことを考えてみた。

今日の試験の手応えだと、たぶん合格してるだろう。
あの中学には希望すれば入れる学生寮も、あったはず。

お金に困ってるわけじゃないから、いざとなったら弁護士さんに家の管理は相談して、寮に入ってもいい。

その方が時間の余裕もできるし、寝泊まりする寮友達にいい奴がいて、新生活も楽しく過ごせるかもしれない。



・・今日はシチューにしよう、と野菜を適当に切っていく。
集中していると、だんだん気分が晴れてきた。

そう、気のもちようなのだ。
今の現状を、少しでも楽しい方向へ、自分の好きなように持っていけばいい。

鍋に放り込んで火にかけてから、しばらく煮込もうと暇つぶしにテレビをつけた。

途端に、バラエティー番組の司会者の賑やかな話し声と観客の笑い声が、リビングに広がる。


俺はまだ、やっと中学に入ろうとしてるただの子供だ。

なかなか、一人の生活に慣れるなんて器用なことはできなかった。けれど。


「・・・うん、頑張ろう!」

ぱすん、と拳を握り合わせtて、小さく自分を激励して、前向きになろうと決心したんだ。

----そんな健気な心意気が、某・馬鹿野郎によってうち砕かれるまでは-----




* * * * *



並中の校門。入学式のために、華やかに飾られた入口に、
何やら真っ黒な背の高い男達の群れ。


・・・何だ?あの黒いの。



えーと、確か今日は入学式で、それでもって並中ってブレザーが制服で・・うん、俺の回りの子も全部、ブレザーだ。
間違いない。

でも、校門前のアレってどう見ても、ガクラン。

最近の中学校は荒れてるって聞くけど、アレがそうなのかな、不良。
だってどっかの青春ドラマで見たリーゼントがいっぱいいる。

うん、小学校ではとりあえず縁が無かったけど
(小学校で不良が跋扈してたら日本の将来は真っ暗だ)

中学生になると、そういう人も多いのかもしれない。

珍しいものを見たなあ、いやでもこれから見慣れるのかなと色々考えつつも、校門前に辿りついたのでそのまま何事もなく、通過しようとした時だった。


「やあ、よく来たね、翼」


すごく聞き慣れた声が、すごく嬉しそうな口調で、すぐ近くできこえたのでびっくりしてふりかえった。

「雲雀?」

黒ずくめガクラン集団の中央に、幼馴染みが立っていた。
えーと・・・


「なんで雲雀は、ガクラン着てるの」
「僕が風紀委員だからさ」
「へえ・・」

ああ、なるほど。雲雀の左腕には「風紀」って腕章がある。
この黒いガクラン集団は委員会の面々なんだ。
・・でも強面を揃えすぎじゃないか?


「翼は、そのブレザー結構似合ってるね」

「そうか?これから背が伸びるかなって大きめなの買っちゃったから、なんかブカブカでかっこ悪いと思うけど」


俺は、雲雀の格好を上から下まで眺めつつ、当たり前だけどタメ口で話してた。

俺は年下だけど幼馴染みでずっとタメ口だったから、中学校では先輩?にあたる雲雀にも、突然は改まった口調にする気がなかったからだ。

それでも、俺は周りの空気が異様に強ばってることに気付いてた。

俺達をいつのまにか遠巻きに囲む形になってたガクラン(兼リーゼント)集団が、化け物でも見たように目を剥いて俺のことを凝視してる。

口が半分開いてる人もちらほら。


「ああ、ちょっとこっち向いて」
「へっ?」

雲雀に肩をつかまれて、向き合う形になる。なんかすごく嬉しそうな声だ。
(表情じゃ相変わらずわかりにくいけど)

くん、と引っ張られる間隔と一緒に、ネクタイにそっと手が添えられた。


「ほら、曲がってるよ」
「ん・・サンキュ」


どよっ

なんだなんだ??
またガクラン集団が、どよめいた。

呻き声というか、野太い声で「嘘だ」等の変な言葉まで聞こえるんだけど。


どうでもいいけど、いつまでもここで何してるんだ、この人達。
よほど暇なのか?


でも目の前に俺より背が高い雲雀がいるせいで、妙な雰囲気が俺達を取り囲んでどよめいてることしかわからない。

器用な手つきでネクタイを締め直すと、雲雀は少し屈んで視線を合わせてきた。


「ところでね・・・翼」
「ん」
「なんで君、最近連絡つかなかったの?」

何度も携帯にかけたし、自宅電話にもかけたし、部屋も覗きにいったのに・・と、続ける雲雀の言葉を、


「雲雀に会いたくなかったから」



俺はばっさり、切りすてた。
(部屋も覗いてたのか、と新たな事実に内心で戦慄しつつ)


真っ黒な瞳を見開いて「・・どうして」と呟き呆然としてる幼馴染みの姿を、もう少し堪能したい気もしたけれど、タイミングよく校舎から鐘の音がきこえてきた。


俺達新入生の入学式がもうすぐ、はじまる。


雲雀が肩にひっかけてたガクランの上着を、引っ張って奪い取った。

ひらりと大きく広がったそれは、背後の白い桜並木に、真っ赤なガクランの裏地が映える。

・・・ただの風紀委員にしちゃ、派手じゃないのか?


バフンと音をたてて、屈んだままだった雲雀の頭に真上から叩きつけるようにガクランをおっかぶせて、叫んだ。

「自分の胸にきいてみろ!この馬鹿ヒバリ!」



次の瞬間、「うおおお」だの「キャアア」だの、半径50メートルくらいを取り巻いた男女問わず、もの凄い喧騒が巻きおこったけど、そんなのは俺の知ったことじゃない。


憤然たる足取りで、まっすぐに入学式会場を目指した俺は、それくらい、雲雀のやった事を怒ってたんだ。


* * * * *


----後日。

この時の騒動がきっかけで、「怪獣コンビ」という嫌なひびきのアダ名を雲雀とセットでつけられてしまった事を知ることになる。


「雲雀はともかく、俺は怪獣なんかじゃない!」
と憤慨していると

「君は『怪しい小動物』で、僕が『獣』って意味らしいよ」
と涼しい顔で雲雀に解説されたので、とりあえず、枕で殴っておいた。

(雲雀は勝手に泊まりにきてた)




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あきゅろす。
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