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short novels
異世界の森
ファンタジー ?×大学生@

異世界トリップ

「――は?」

ちょ、ま、……や、一旦落ち着こう、な?
今日は4限だけ授業の日だったから、いつも通り昼頃起きて大学に行って、友達とちょっとしゃべってからバイト先の居酒屋に向かって、ラストまで働いた。
特にクレームもなくトラブルもなく平和に終わって、まあ当然疲れたけど気分も良かったし、アイスでも買っていくかーってコンビニに寄って……

――そう、その後確か、突然目の前に開いた穴に落ちたんだ。

「はぁ……待ってくれよ……」

誰にでもなく、ただ混乱する頭を整理するためだけに、とりとめもなく独り言をつぶやく。
――まあ、実際には街中のアスファルトの上を歩いていたはずだったのに、何故か視界に広がる深い森と、目の前で赤い舌をチラつかせるオオカミに似た巨大生物に対する当然のつぶやきなんだけど。

「どうすりゃいいんだよ…なんなんだよ…マジで!」
「――!」

今にも飛びかからんとする巨大なオオカミモドキに向けて手近にあった石を投げつけ、ひるんでいる隙を狙って猛然とダッシュする。

逃げ切れるかどうかなんて、考えている余裕はなかった。
追いつかれるとしても、ただその場にうずくまって、大人しく食われるなんて絶対に嫌だ!

「はあ…はあ…!」

走り続けて何分経っただろうか、予想に反して、あのオオカミモドキが追ってきている気配はない。
投げた石は小さなものだし、むしろ怒って追いかけてくると思ったのだが…

まさか、ひるんで諦めてくれた…?

まさかの幸運に信じられない気持ちもあるが、今見える範囲にあのオオカミモドキがいないことも事実。

「はぁー、よかったぁ……」
「良いはずがないだろう」
「――!?」

安堵もつかの間、突然耳元で声がしたことにビビりまくって飛び上がる。

「――!なっ、はぇ…?」

あまりのことに、うまく言葉が出てこない。
振り返ってみれば、ダークグレーの長い髪を無造作に後ろに垂らした筋骨隆々の美丈夫が、いかにも気に入らないといった風な表情を浮かべてこちらを睨んでいた。

「なんだ、お前は。言いたいことがあるならはっきり言え」

訊きたかったことを先に言われてしまい、更に口をパクパクさせるしかできない俺に、目の前のワイルドなイケメンは聞き捨てならない言葉を続けた。

「ふん。気絶したままゴブリンどもに浚われそうになっていたところを助けてやれば、目覚めた瞬間石など投げてきやがって…」
「は…?」
「なんだ?5分前の出来事すら覚えてられねーのか?お前は」
「え、いや、ちが…今、石投げたって」
「投げただろう?咄嗟に避けたが、お前はオークの里に向かって走っていきやがるし…」
「…でも俺、オオカミに食われそうになって」
「お前みたいな貧相なガキ、誰が好き好んで食うか!」

なんだか会話が噛みあってない気がするが、これは…

「あの、つかぬ事をお聞きしますが」
「なんだ。はっきり言えって言ってるだろ」
「あ、あの、もしかしてあなたは、オオカミに変身できたり、とか?」

や、まさかそんなはずないですよねー、と、そう思いながらも問いかけてみた。

「あ?見りゃ分かんだろ」
「そ、そうですよね、どこからどう見たって人…」
「この毛並みのいい尻尾。トラの野郎やハイエナどもなんかとは比べ物になんねーくらい立派だろ?」

そう言って誇らしげに見せられた、髪と同じダークグレーの尻尾は、どう見たってこのイケメンの腰のあたりから生えていて…

「はは…は……」
「?あ、おい」

もう考えることを放棄した俺の頭はだんだん霞がかかったようにぼやけてきて…

「おい、おいって!…あーあ、また気絶しやがった」

うん…変わった夢だな…遅くまでバイトしたから疲れてるんだな…なんて。
どこかで何かが危険信号を伝えてきている気がするけれど、気にしない、気にしない…

そうして俺はかすかに残っていた意識を完全に手放し、本格的に夢の世界へと旅立ったのであった…


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あきゅろす。
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