short novels
午前2時 夏
現代 社会人×大学生@
8月の真夜中、午前2時。
冷房をガンガンに効かせたコンビニで、今日も一人で夜勤に勤しむ。
田舎のコンビニに、こんな時間にお客さんが来ることの方が珍しいから、普段はスタッフルームで携帯弄りながら暇つぶしするんだけど……今日は違う。
「あ、いらっしゃいませー!」
そう、今日はあの人が来る日。
「こんばんは。今日も夜勤なの?」
すらっと背が高くて、たぶん180cmくらい。明るすぎない茶色に染めた髪をふんわり自然に横に流して、耳にはシックなピアスが一つだけ。
「はい!明日は大学、昼からだから…」
「そっか。でも、頑張りすぎて身体壊さないようにね」
し、心配してもらっちゃった…
ああ…やっぱりカッコいいなぁ…
顔立ちも整っているせいで少し怖い感じもするけど、笑うとその灰みがかった目が悪戯っぽくゆがんで、なんというか、その色気に当てられたっていうか…
簡単な話が、その、笑顔を見た瞬間、一目ぼれしちゃったんだよね。
「ありがとうございます!あ、今週は新作プリンを入荷したんですけど、すっごくトロトロでおすすめですよ!唐揚げも買っていかれますよね?」
毎週火曜と金曜の深夜に来て、買うものは唐揚げと甘いお菓子。
今まで新作のお菓子はバイト仲間の女子高生にあげてたんだけど、最近は僕も味見させてもらってる。
「そうなんだ、じゃあ今日はプリンにしようかな。それにしても参ったな。俺、もしかして裏で「またあの唐揚げが来た」とか言われてるんじゃない?」
「そ、そんな事ないですよ!むしろユキちゃんなんて「あの王子様に会えるなら、私も夜勤やりたいー」なんて言ってるくらいで…あ、ユキちゃんって、夕方バイト入ってる女子高生なんですけど!「あの唐揚げ」なんて絶対呼びませんって!!」
「ほんとかなー?うーん、王子様なんて柄じゃないからそれもそれで…ちょっと照れるね」
そう言って困ったように笑った顔も、めちゃめちゃカッコよかった。
「じゃあ今日も唐揚げをひとつ」
「―!は、はい!少々お待ちください!」
はっ、しまった。ぽーっと見惚れてしまっていたことに気付いて、慌てて手を動かす。
「お待たせしました」
「はい、ありがとう」
先に会計を済ませて商品を手渡す。
あ、ちょっと手触っちゃった…!
勝手にドキドキしながら顔を上げると、ダークグレーの瞳と目が合った。
「じゃあまたね、三好くん」
「!ありがとうございましたー!おやすみなさい!」
な、名前呼ばれちゃった…!名前を…名前……
「――あ!!」
ま、また名前聞き損ねた…
「くそー…今日なんてあだ名の話まで出たのに…」
せっかくのチャンスを無駄にしてしまった…
次あの人に会えるのは火曜日。
次こそは絶対に名前を訊くんだ…!
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