ジレンマ恋模様(キリク)

王都にあるタムユアンからカザルム王獣保護場へと赴任してきた教導師、キリク。
学童の女子生徒をあっという間に虜にさせた。
凉もその一人である。

「はい、ご褒美の飴玉」

ころん、と手渡された飴玉。
凉は手渡されて少し考えてしまった。
この先生は、毒を教える先生なのだ。

「ありがとう、ございます」
「どういたしまして」

始終ニコニコしているキリク。
授業の終わりを告げる鐘が鳴った。

「ああーんっキリク先生ほんまかっこええわあ!」
「ユーヤン、落ち着いて」
「だって、凉、あんな先生がここにくると思わんもん!」

確かに、と凉は心の中でつぶやいた。
しかし、

(爽やかに見えるけど、心の中は、何か抱えているものがありそう・・・)

凉は寂しい思いを抱えている人や獣を気づける子だった。
その寂しさを癒すために、獣の医術師になろうとしたのだった。
結局凉はもらった飴玉は食べなかった。

午後の全ての授業が終わった。
凉は学舎をただ歩いていた。

(あ・・・)

目の前にキリクがこちらに向かって歩いていた。
カツーン

「あっ」

キリクの授業でもらった飴玉が落ちた。

「・・・」
「・・・」

無言が続いた。
口を開いたのは、キリク。

「そう、君は僕を信用していないということか」
「!」
「確かに、毒の授業をもっているから・・・用心は必要だね」

凉は感じていた。
キリクの心が一気に冷えている。
ああ、これをどうたとえばいいのだろうか。
凉自身も冷えている。

「でも、大丈夫だよ。学童の子に毒を含ませるようなことしたら、僕はここにいられない」
「・・・帰る、ところは」
「・・・ここしか、ないよ」

本当にそんな目で、そんな声で切なそうにキリクは言った。

「すみません、疑ったりして」
「いいよ。落ちたものは食べないほうが良い」

キリクは右側の腰に掛けた小さな袋を開けた。
あの中に、飴玉が入っている。

「新しいのをあげよう」
「・・・」
「?」
「先生、」
「なんだい?」


「どうして、そんなに哀しい顔を、辛い顔を、しているのですか?」
「!」


凉はじっとキリクを見つめていた。


「君には、関係ないことだよ」
「・・・そうですけど」
「どうやら君はそういう人を放っておけない性格のようだ」

キリクは新しい飴玉を右手に持って、凉に近づいた。

「でも、」
「あ」

ころん、と凉の口の中に飴玉が入った。
そして、キリクは落ちた飴玉を拾った。

「僕には関わらないほうがいい」



そして、キリクは去って行った。




「・・・そんなこと言われても」



凉の鼓動が知らず知らず、早くなっていた。



「甘くて、美味しい」




ジレンマ恋模様
(あなたを知りたい。けれど怖い)







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