風が導くまま(死ネタ)


清潔に整っている病室。
花瓶に彩りを見せる華。
外とは違い、静かな時が流れる。


コンコン。


「よう、凉」
「亮」
「体は大丈夫なのかよ」
「んー、多分もうダメかもしれない」


微笑しながら凉は言うものだから、亮は返答に戸惑った。


「そんなこと、言うなよ」
「…」
「高校入っても、俺と一緒に登下校するんだろ?」
「…」
「ずっと、一緒に居るって言ったのは誰だよ」
「…」


それは夏。
レギュラーに復帰した亮に凉は言ったのだ。

「亮は私と長太郎くんが居ないとダメね。だから、私、ずっとあんたの隣に居る。よし、決定!!」


しかし、凉は全国大会後、原因不明で倒れた。


「…なぁ、病名はなんなんだよ」
「さぁ」
「さぁ…って」
「余命言われちゃったから、病名なんて覚えてないよ」


ただ、凉は病室で一人泣き続けたのだ。


「……」
「亮」
「おう」
「私の分まで幸せになるのよ」
「…」
「私以上に素敵な人、見つけるのよ」
「…っ俺は「絶対」」
「絶対に、道は外さないで」


それは、我を見失い女遊びに溺れぬよう、大切なテニスを無くさぬよう。そんな思いから発せられた言葉だった。


「バカ野郎」


亮は強く凉を抱き締めた。逃がさないよう、離れないよう。ずっとずっと一緒に居てくれ、と願うように。


「……っ」
「バカ、泣くときは泣け。何我慢してんだよ」
「…ぅん……ごめ…」





翌日、亮が去った後、凉の容態は悪化し、この世を去ったことを、亮は担任から聞かされた。
皆、黙って黙祷をした。

亮は、考えることをしなかった。
目を開けると、泣いている凉の友人が目に入った。


放課後、亮は凉の病室に入った。
誰も、居ない。


「…はは、嘘、だろ?まさか、抜け出したりとかしてねぇよな、あいつ」


亮は走った。
特訓したテニスコート、公園、喫茶店、学校。

泣きながら走った。
小さな服屋さんや雑貨店。

二人の思い出が詰まっていた。


「嘘だろ?馬鹿…。余命なんか信じて…覆せって…」


俺と一緒に居るんだったら、これぐらい、やってくれねぇと、という言葉は地面に落ちて言った。


「亮くん」


びくっと後ろを振り向くと凉の母だった。


「近くに居てよかった」
「…あの」
「何故俺を探してたって?あの子の遺言を今すぐにでも言いたくて」
「え…」




凉の葬式も終わり、新学期が始まった。


「凉、新学期始まったぜ」


亮の心残りとしては、高校の入学式に凉と参加したかったこと。

あと数週間、遅ければ。


「……お前の分まで生きるぜ…」


凉の遺言は、二人きりの時に言われたものと同じだった。

ただ、少し違っていた。



「本音を言えば、亮と自分以外の子と付き合って欲しくない。でも、亮は優しいから。これを聞いたら私の言葉に縛られる」


「"私の言葉はあまり気にしなくていいよ"…って。本当にバカだよな」


さあああと強く風が吹く。
「バカじゃないよ!」と答えるように。



「また会おうな」




今度は優しい風が吹いた。





風が導くまま
(俺も俺の道を歩くぜ)



end.


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