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日記 SS
風邪に眩暈と、この気持ち(京極&関
なぜか、いつもより長くて強い眩暈に襲われた。

いつも通る目眩坂。普段なら、軽く足を止めるだけでおさまる程度の軽い眩暈しか起こさないはずなのに…

あぁ、倒れる。

頭の片隅にある、どこか冷静な部分がそう思ったのとほぼ同時。
地面に僕は倒れ込んだ。

起き上がる気力も、体力もありはしなかった。


瞼を閉じる直前、漆黒の闇に舞う桜を見た。











「…んっ…」

軽く身動ぎをして、寝返りをうった。
はさり、と何かが落ちた音がしてすぐに冷たいモノが額に触れた。


「気が付いたかい?…関口君」


鼓膜を震わすのは心地の良い甘いテノール。

網膜を焼くのは、漆黒の闇。


「…きょう、ごく……?」


何度か瞬きをして視界をハッキリさせると、
呆れたような、安堵したような表情の古本屋が居た。

「僕は、どうしたんだ?」

「坂の上で立ち止まったかと思えば、いきなり倒れたから、拾って来たんだ。僕の家の前で生き倒れられちゃ、後味が悪いからね。」


愚か者を蔑むような視線で見られて、僕は目を背けた。

枕の隣には水の張った洗面器。中には白いタオルがフワリ、フワリと漂っていた。


目が覚める直前に、額から落ちたのはこれだったのかと気付く。

そして、その後に触れた冷たいモノは何だったのかと周りを見渡して見るが、それらしいものは一つも無い。


「どうかしたのかい?関君。」

「え、いや、あの…その…」


どうしてだろう、いつもより頭が回らない。
ろれつも回らない。


「今、君は熱を出しているんだから、おとなしくしているといい。下手に熱が上がって、本格的に鬱病になられると僕も手をつけられなくなる。」


着物の袂から、伸ばされた白くて美しい手。
いつも本の項を丁寧に捲っているその手が、僕の方へ伸ばされてくる。

ヒタリ、と額に触れると、さっきと同じ冷たさが肌を通して伝わってくる。


「まだ、熱は高いようだね。今日は泊って行くといい。僕が雪絵さんに連絡を入れておこう。」


そう言って立ち上がろうと床に手をついた京極の、袖を握った。


「どうかしたのかい?」

「…行かないでくれ」


あぁ、僕は何を言っているんだろう。
旧友相手に、行かないでくれなどと…

僕は相当熱に犯されているらしい。


「…仕方がないね。熱が出ていると心細くなるからな。君が眠ってから雪絵さんには連絡を入れることにするよ。」


もう一度布団のそばに腰を落ち着けた京極は、冷たい手で僕の熱い手を握ってくれた。

開いてる方の手で、額に張り付いた前髪を払い、頭を撫でてくれる。



酷く安心した。

途端に睡魔に襲われる。もう少し、この時間を味わっていたいのに…



「そうだ、京極。今度、一緒に…花見にでも、行か…ない……か…」



あぁ、一緒に行くなら昼間が良いだろうか、夜が良いだろうか。





穏やかに笑う君の声と、鶯の鳴き声を子守唄に、僕は眠りに落ちた。




風邪に眩暈と、この気持ち

君といると、全てが落ちついていくみたいだ。
















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あきゅろす。
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