卯月朔日、愚者が嗤う
※ 時間軸はパラレル気味
ケース1:AM 7:20 鈴
「僕ね、飛び級してるから、ホントはみんなと同い年じゃないんだ。先月で12になったんだよ」
「………」
朝。休日であろうとも比較的起床の早い二人が、向かい合って朝食を食べている途中の台詞。
コーヒーを飲みながらさらりと言った鈴に、御門は微妙な表情をしてルームメイトを見つめた。
「……、鈴」
「ん?」
「…頭ではエイプリルフールだ、って分かってても、その説に妙に納得しちまう自分が居るから、そういうリアリティのある嘘は止めてくれ…」
「ふふふ…」
4月1日、エイプリルフール。
そんな筈はないだろう、とは思っても妙な説得力を持つその言葉に思わず脱力してしまった朝。
ケース2:AM:11:00 雅弥
「…あのさ御門、君に借りてたCDなんだけどさ…」
「あ?」
ちょっと話があるから外に出ようか、などと雅弥が部屋を訪ねてきたのは数分前。
寮の近くをぶらぶらと散歩しながら、彼にしては珍しくやや歯切れの悪い調子で切り出した。
「何だよ?」
「いやー…、言いにくいんだけどね……実は共同スペースに置いてたら、愛紗がバキッと割っちゃって…」
「はぁ!?」
頬を掻きながら気まずげに言った雅弥に、御門は思わず声を撥ね上がらせた。
一週間程前に、雅弥に貸したCD。御門のお気に入りアーティストのもので、同時にコレクションの一部でもある。
「…ちょっ、バカ、あれ初回版だから貴重なのに…」
「うん…、ごめんね?」
眉を下げる雅弥。…素直に直球で謝る彼は、少し珍しい。それだけ悪いと思っているのか。
御門はこめかみをぐりぐりと押しながら、深く深くため息を吐き出した。
「……、やっちまった事は仕方ない…か。愛紗も悪気あった訳じゃねえんだろうし…」
「うん。…、とりあえずCD返すね」
言いながら差し出された紙袋。
おそるおそると中身を確認してみれば、意外と傷一つ見当たらないCDのケース。
「……って、ぱっと見無事なんだな?」
「うん、だって嘘だからね」
「は?」
さらりと言った雅弥に、思わず目を見張る。
にこり、と眼鏡の奥で笑う黒珠の瞳。
「ビックリした?」
「……、した。…テメェ…」
「ふふ、細やかな演技だったでしょ?」
これは寧ろ、態度で騙された感はあるな…と、御門は返して貰った無事なCDを手にため息を吐いた。
そんなエイプリルフールの昼。
ケース3:PM 12:03 愛紗
「うわっ、愛紗それどうしたんだよ!?」
昼食を取りに訪れた愛紗の格好を見て、御門は驚いた声をあげる。
それもその筈。彼のその華奢にして逞しい右腕が、すっぽりと固定用の白いギプスで覆われていたのだ。
愛紗は左手でぽりぽりと頭を掻き、苦笑いで続ける。
「練習してたら、ちょっと骨が曲がったらヤバい方にいっちゃってさ。ぽっきりと」
「骨折か? マジかよ…」
あはは、と妙に明るい声で笑う愛紗に、御門は眉を寄せる。
利き腕が骨折では、さぞ不便であろう。
「治療魔法とかで、治ったりしねえのか?」
「治らねえなぁ…」
「は? それって結構まずいんじゃ…」
「いや? そんな事もねぇぜ?」
ふるり、首を振った愛紗は、バッと一気にギプスを外す。
「だって嘘だからな。…あははっ!」
「…、またかぁっ! 愛紗、人の心配を踏みにじりやがって……もう金輪際テメーの心配なんかしねぇぞ!」
「いやー、御門はやっぱ情に厚いなぁ…」
4月1日、昼食時。まさかの愛紗の嘘にも引っかかった自分が、ちょっと悲しくなった。
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