苦く 甘く
※ 未来設定
ふわりと漂ったほろ苦い芳香を、微睡んだ感覚器が拾い上げる。
ゆっくりと重い瞼を押し上げると、頼りない月明かりだけが照らす部屋に朧な影が見えた。
…否、それは影などではなく、紛れもなく明良の愛しい人なのだけれど。
薄暗い部屋の中、ぼんやりと瞼だけを上げ彼を見上げていれば、段々に暗闇に視覚が慣れてくる。
(…ぁ、煙草…)
ハッキリと見えるようになった輪郭で、気付く。先程からふわふわと鼻孔を擽る、ほろ苦い香りの正体はこれだ。
(……ちゃんと吸ってるトコ、初めて見たかも……)
彼が喫煙者である事は知っていた。ポケットに入れているのを目にした事はあるし、抱き締められた時に残り香を感じた事もあった。
ただ、彼が実際明良の前で吸う事は今までなかったから。
だから、つい珍しくてその仕草を眺めてしまうのは、仕方ない事だろう。…別に、見惚れてるなどという事は……もちろんあるのだけれど。
(…綺麗……ってかカッコいいなぁ……)
彼の外見は顔の造作から指先の造りまで、全てが明良の好みに合っているし、大概の仕草は彼を引き立てる様に似合い、美しい。
…只、これ程綺麗に彼を“魅せる”仕草があるとは知らなかった。
細身の煙草を指の間に挟んで、時折口許に運んではそれを味わっているだけなのだけれど。
何故だろう、途方もなく美しく、逸そ神聖なものの様に感じてしまうのは。
「……明良?」
余りに美しい光景に感嘆の息を吐けば、その音を拾ってか彼が振り返る。
薄闇の中、愛しげにその瞳を細めたのを知る。
「…起きた?」
言葉と共に羽根の様に軽い口付けが、唇の上に落とされる。…ほんのりと、苦い味がした。
「うん。…煙草、」
「ん? あぁ、ゴメン、あんまり好きじゃなかったか?」
その手に握られたままのそれを示せば、彼は少し困った様に苦笑いした。
そんな顔も綺麗なのだけれど、明良は感じたままにゆるゆると首を振った。
「ん、好きじゃないけど…好き、かも」
「?」
「煙とか、あんま好きじゃなかったけど……、利也が吸ってるトコは、好き。…綺麗だから」
ことりと枕の上で微かに首を傾げ、ベッドの端に腰掛け此方を見下ろしている彼を上目使いに見やる。
彼は長い睫毛に縁取られた瞳を幾度か瞬かせていたが、やがてクツクツと口許に手をやり笑った。
「何、ソレ。…やっぱ可愛いな、お前」
「……だって……」
楽しげに笑う彼に恥ずかしいような何とも言えない気持ちになり、思わず枕に顔を埋める。…が、それは彼の手によって掘り出されてしまう。
「…コーラ、ちゃんと言ってみ? 俺やから好きなんやろ?」
「ぅ…」
楽しんでいる証なのか、口調がいつもの耳通りのいい偽関西弁になっている。…こういう彼は、始末が悪い。
「……知らないもん」
「ちょっ、もんって…。…あぁ、ホント可愛いな」
煙草を硝子の灰皿に押し付け、自由になった形良い指先で明良の頬をなぞる。
「なー、明良が煽るから、もう一回したくなったんだけど?」
「…っ」
これまた愉しげに細められる瞳が近付いてきて、明良の視界を覆う。
重ねた唇はやはり、ほろ苦い味がした。
……それでもどこか甘い、なんて
10万Hit記念小説〜、…という事で今回は初めて利也×明良の未来編甘々を書いてみました〜。
…ていうかキャラが違うww ←
くっついてるから、ってのも理由の一つですが、明良は寝起きで多少寝惚けてます(笑) それから雰囲気に酔ってるのもあるかと。
あと利也さんの口調が違うのは、素で喋ってるから。元々関西弁はお遊びで喋ってるので、こっちが普通なのです。
…補足の多いSSですね(笑)
とりあえず薄衣は煙草の煙とか匂いは嫌いですが、煙草を吸う、って仕草が好きなんです。
やっぱ美形が吸ってるとカッコいいだろうな〜、という訳で明良には利也さんに見惚れてもらいましたw 元々明良は利也さんの造作が大好きですからww
……ていうかかなりナチュラルに事後な件(爆)
…そんな訳で、10万Hitありがとうございましたv 当サイトにいらして下さる、全てのお客様へ愛と共に捧げますvV
→08.12.22. 薄衣砂金
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