[携帯モード] [URL送信]
「初めまして」の魔法

※ 未来(恋人)設定



少し低い、彼の体温が心地好い。

甘く緩やかな倦怠感に浸ったまま、この腕に包まれる時間が好きだ。

この世界、彼と自分としか存在していないような。…そんな甘い錯覚。

唯人がその体温に甘えるように擦り寄れば、彼は優しい力で返してくれる。

…そしていつもならば、ここで額や頬に口付けでも降ってくるところなのだけれど。


「…龍治?」


呼び掛けた声さえ、熱の余韻を残して少し掠れていた。

唯人は頬がまた緩い熱を持つのを感じながら、自分を抱き締める愛しい人を見上げる。


「…ん」


呼び声に反応して彼は唯人の髪を優しく梳いてはくれるけれど、視線はある一点を見つめたまま。

此方を見てくれない彼が不満で、その頬を軽く甘つねりして。やっと此方を向いてくれた彼の首に両腕を絡める。


「…どうかしたんですか?」
「あぁ、もうちょっとだから」
「?」


不思議そうに首を傾げる唯人の額に、チュッと小さなリップノイズをたてて口付けを一つ。淡い薔薇色に染まったその頬を見て、龍治は倖せそうに笑った。


「…もう少し、」


あと三十秒。水気を含んだ唯人の瞳が求めるように見上げてきたが、意味あり気に微笑みながらその唇に人差し指を添え制する。


「…龍治、」


あと二十秒。拗ねたような唯人の眼差しが可愛くて、こめかみに唇をあてた。


「唯人、」


あと十秒。愛していると囁いてやりたいけれど、今言うべきなのは違う言葉。

あと五秒。そっと、その頤を指先でなぞる。

あと三秒。二秒。一秒──


「…誕生日、おめでとう」


言葉と共に、その唇へと口付けを落として。

訝しげに龍治を見上げていた漆黒の瞳が、軽く見開かれた。


「…俺の誕生日、知ってたんですね…」
「11月2日、今日だろ」


龍治は当然のように優しくそう言ってくれたが、唯人にとっては少し意外だった。

天然キャラよろしく自分の誕生日を忘れていたとか、そう言う訳ではない。ただ、漠然と龍治はそういった事に頓着しないと思っていただけだ。

喜びより先に驚きが出てしまった唯人に、また軽く口付けて。龍治はそのまま言葉を続ける。


「初めまして、また一つ、大人になったキミ」
「えっ…?」
「十六歳の唯人に一番初めに会ったのは、俺だな」


誕生日を祝ってくれたのも意外なら、口数の少ない彼がこんな気障めいた科白を言うのも意外だった。

唯人は暫し目を見張って龍治を見上げていたが、自分にかけられた言葉の意味を呑み込むなり赤面した。


「……っ、…恥ずかしい…んですけど…」
「俺は、嬉しい」


唯人が生まれてきて、ここに居てくれて。

そっと耳元で囁けば、うっすらと水膜を張った瞳が見上げてくる。


「…俺も嬉しい、です…」


生まれてきて、貴方の側に居られて。

貴方に、祝ってもらえて。


「プレゼントとかもあるけど、…また後でな」
「はい…」


今はただ、この温もりに包まれていたいから。

回した腕に力を込めて、そっと瞼を閉じれば。

いつものように優しい口付けが、降ってきた。



初めまして、また一つ、大人になった自分










--------------------
11月2日、唯人くんお誕生日おめでとう! …という訳で、甘々ラブラブな龍治×唯人でお送りいたしました。
未来設定というか、バカップル設定(笑) 時間軸的には本編沿いともパラレルとも言い難い、微妙な時期です。

こういう雰囲気の甘々いちゃいちゃを書くのが、薄衣の本業で得意分野だったりします(笑) ベッドの中でごろごろいちゃこらみたいな、…楽しいですよねw ←


何はともあれ、ハッピーバースデー唯人! このまままた龍治に美味しく頂かれちゃいなさい!(笑)


→08.11.2. 薄衣砂金



1/1ページ

[戻る]


あきゅろす。
無料HPエムペ!