夢幻、リアル
「…おはよう御門、朝だよ」
…耳元でそう囁く声は、夢だと思った。
この甘やかな美声の持ち主は、三日前から不在で。おそらく一週間ほどはかかるだろう“仕事”だと言っていた。
だから、これは夢。認めたくないけれど彼が側にいない事を寂しく思う自分の、願望染みた夢。
(……やっぱ、寂しい…もんな。誕生日の朝に一人なんて……)
意地悪でも、サディストでも、憎めない愛しい恋人。アンタはどうして今日隣で寝ていないんだよ、なんて子供みたいな我が儘を心中で呟く。
…夢の中だとしても、囁く声は愛しくて。目を醒ましたくないだなんて思った御門は、枕に顔を深く埋めた。
「…ホラ、起きなさい僕の眠り姫」
クス、と笑う夢の声。薄ら寒い台詞は如何にも彼が揶揄染みて使いそうなものだが、そんなものを脳内で産み出すだなんて、相当自分もキている。
などと思って微かに眉根を上げる御門の頬を、何かが思い切り抓り上げた。
「──いってぇ!!」
「…あぁ、やっと起きた」
痛みに飛び起きた御門の斜め上から、呑気な呟き声。
驚いてベッドの横を見上げると、此処にいるはずのない人間の笑顔。
「ふふ、おはよう、僕のお姫様」
「…は…?」
これはまだ、夢?
伸びてきた白磁の指が、呆然のする御門の頬をするりと撫でる。
晴れた空に似た神秘的なセレスティアルが、クスリと笑う。
「すっごい間抜け面」
「…な……んでお前此処にいるんだよ!?」
やっと思考が活動を始めた御門が、叫ぶ。
使い魔の趣味であるピンクの天蓋付きベッドの脇に立つのは、此処にいる筈のない人。…焦がれて止まない、恋人。
わなわなと震えつつ突き立てられた指の先、孝雪がにこやかに笑う。
「…んー、愛の為…かな?」
「仕事はどうしたんだよ!?」
「…まったく、御門は真面目だよねぇ」
声を荒げる御門に、孝雪は肩をすくめる。
せっかく帰ってきた恋人に、「おかえりなさい、ダーリン」とか言えないの?、なんて嘯いた孝雪は、軽くため息をついてベッドの端に腰掛けた。
「…いや、今日が御門の誕生日だって言ったらね、相方の椿が『じゃあ、早く仕事終わらせなきゃね』って。いつもの倍速で仕事終わらせちゃったよ、あの子」
本気の椿は怖いね、と呟きつつ、孝雪は御門の頬に指を滑らせる。
ぱちぱちと瞬く瞳を覗き込み、囁く。
「だから、今日はずっと一緒にいてあげられる」
寂しかったんでしょ?、なんて何もかもお見通しみたいに笑う彼に頷くのは、口惜しくて。
でも、嬉しくて。
返事の代わりに、頬に添えられた指をぎゅっと握った。
ありがと、俺の王子様。…なんて、絶対に言ってやらないけど
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10月7日、御門誕生日おめでとう! …遅れてごめんよ、御門(^^;)
なんだかんだ言いつつ、孝雪が大好きな御門です(笑) でも言葉では言わない、ツンデレだからw
孝雪は気障な台詞回しが似合い過ぎて困ります(笑) わたしの頭じゃ、薄っぺらなポエムしか出てこないのに! ←
この後、なんだかんだ言いつつイチャイチャした二人だと思いますw おめでとう御門、お幸せにww
→09.10.8. 薄衣砂金
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