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「こんな時間に、どなたでしょう?」
「郵便かそれか…、此処に直接来るのは利也くらいだろう」


首を傾げる唯人に答える。

龍治宅を直接訪ねて来る人間の選択肢など、そう多くはない。…ちなみに家族も訪ねて来るのだが、おそらく龍治は故意に候補から外した。


「…出ないんですか?」
「ん…」


自分を見上げる唯人の、小さすぎる上背を見ながら、龍治は微かに眉を寄せた。

今の唯人の状況からして、気軽に応対しても良いものか。若干パニック状態も鎮静化してきたとはいえ、異常事態なのには変わりない。

などと考えているうちに、二度目のチャイムが鳴る。三度目四度目……と容赦なく連打だ。


「…………」
「龍治、行った方がいいですよ…」


それを聞いてますます出たくなくなった龍治だが、苦笑いする唯人に仕方なく足を進めた。

放っておきたいのは山々だが、確実に近所迷惑だ。何より自分も煩い。


「…っせぇんだよ、利也」
「おっ、やっと出た。はよーさん、リュウ」


龍治の不機嫌など気にも止めず何故か楽しげに笑う利也に、ため息が零れる。

朝から絶好調の利也の陰でビクブル震えているのは、若干顔色を悪くした明良。しかめ面の龍治と目が合うと、ビクッとしながらも頭を下げてきた。


「……すっ、すみませんこんな時間に……」
「…そう思うなら何故止めなかった」
「止めましたよっ! …聞いて貰えなかっただけで」


ボソッと悲しげに付け足された言葉に、龍治はまたため息をついた。役に立たないストッパーだ。


「…何の用だ」
「そや、この近くにちょい話題になっとるケーキ屋があってな。そこのプリンが一日50個限定だかなんだかで、メッチャウマいって評判なんや。んで、今日はちょっとそこ行ってみてプリン買ってきたんやけど、せっかくウマいってモンなら、唯人クンの淹れる紅茶で食ったらなおウマいんやないかと思ってなー」
「…………」


マシンガントークと共に差し出された箱に、思わず呆れて声が出なくなった。


「リュウがそないな寝起きのカッコでおるんなら、おるんやろ唯人クン」
「居るには居るが…」


幼児化している、なんて口に出した所で誰が信じるだろうか。

説明しあぐねて部屋を振り向く龍治に、明良が利也の陰に半身を隠しつつも訊く。


「…唯人、体調悪いとかですか?」
「いや、健康体の筈だ。…体調自体は」


心配そうに顔を歪める明良に、どこか引っかかりを覚える言い方で返す。

プリンの箱を掲げた利也も、怪訝そうに眉を寄せた。


「…何かあったん?」
「……とりあえず、入れ」


ぐだぐだ言葉で説明するより、実際に見た方が早い。

百聞は一見に如かず。けれど、この状況を一度見ただけで素直に納得出来るだろうか。


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あきゅろす。
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