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いつもより更に小さな手のひらが、ぺちと龍治の頬を叩く。もちろん痛くなどはないそれは、叩くというよりは触れたに近いのかもしれない。
「…可愛いんだけど」
「…知りません」
拗ねたように呟かれた声に、ついつい笑いが零れる。
小さな躰を抱き寄せてその柔らかい頬に口付ければ、唯人はふるふると首を振って小さく抵抗を見せる。
「駄目ですよ…」
「…キスだけ」
「本当ですか…?」
訊き返す声が若干疑いを含んでいるのは、確実に日頃の行いのせいだろう。けれど、唯人は細やかな抵抗を止めた。
頬に、額に、瞼に、鼻先に、顔中の至る所に口付けを落としていけば、擽ったそうに目を細めた唯人が身を捩る。
その仕草が可愛らしくて小さな首元に顔を埋めれば、咎めるように緩く髪を引かれた。
「もっ…龍治っ」
「…いいだろ、痕くらい」
「貴方は、見える所に付けるから…」
恥ずかしそうに言って、唯人が俯く。
その様は思わず血迷いそうになる程可愛らしく、龍治はひょいとまた唯人を持ち上げて自身もベッドから起き上がった。
突然の彼の行動に、唯人は幼い仕草で首を傾げる。
「…? どうしました?」
「…いや、このままベッドに居ると危ねぇ」
「え?」
訊き返すと、至って真面目そうな龍治の声。
「…最後までしちまいそうになる」
「…! ちょっ」
「流石にヤバいって分かってる。だから起きるぞ」
抗議の声をあげそうになった唯人を遮って龍治が言う。何とか理性を繋ぎ止めておく為にか、頬を赤くした唯人から視線を外しながら。
「もう…」
やっぱりこの人は危ない…、などと思いながらも、ほんの少しだけ残念に思う気持ちは否定しきれない唯人である。結局、どっちもどっちだ。
ベッドから降りた唯人は、長い龍治のシャツの袖を持て余しながら部屋を見渡した。元から広い部屋だが、今は視点が小さくなっているせいで余計に巨大に見える。
…とりあえず顔を洗って来ようと、バスルームと繋がっている洗面所へ向かった。
「…洗面台が高い…」
流石に台の上に顔が出ないという程まではいかないが、鏡の前に置いてある石鹸が遠いのは事実だった。
洗面台の前で必死に爪先立ちをして奮闘する唯人に、後ろから微かな笑い声。
「龍治」
「…可愛い」
「可愛い、じゃなくて見てるんなら助けて下さいよ」
「ん、あぁ」
不満げに唇を尖らせる表情は、今の幼い唯人に似合ったそれだった。普段外では無表情な事が多い唯人も、龍治と二人きりの時はやや子供っぽい仕草で甘えてくれる。
…そんな様も心から可愛いと思いつつ、龍治は石鹸を唯人に手渡した。
それでぱしゃぱしゃと顔を洗っていれば、ピンポーンと部屋のチャイムが鳴った。
ちなみに現在の時刻は十時を少し回ったところである。ベッドの上でパニックになっている間分、かなり寝坊してしまった。
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