小さかったあの頃に戻りたい!
朝目覚めると、抱き締めている存在がいつもよりも小さい気がした。
「…?」
軽くて細い、頼りない感覚。…元より唯人はそう大柄な方ではないが、ここまで小さい筈はない、のだが。
不審に思った龍治が瞼を開けて腕の中の存在を抱き上げれば、ひょいと思った以上に軽々持ち上がる小さな躰。……小さな、躰。
「――!?」
「…?」
龍治がチャコールグレイの瞳を驚愕に見開くと同時、瞼を開いた彼は口元に手をやって小さく控え目にはふ、と欠伸をした。
漆黒の髪と瞳の、良く見知った色。見慣れた容貌は面影を残しているとはいえ、異様に幼い。身長もおそらく120、30cm程であろう。
――縮んでいる。完璧に縮んでいる!
唯人(…であろう。その筈だ)を持ち上げた姿勢のままフリーズしてしまった龍治に、両脇に腕を回されている彼はきょとりと首を傾げた。
「…おはようござい…ます?」
「…あ、あぁ…おはよう…」
「何か…おかしくありません?」
「…そう、だな…」
唯人が問うているのは、朝からいきなり持ち上げられている姿勢云々などではないだろう。
それは分かっているのだが、見た目よりもずっと動揺している龍治はしっかりとした答えは返せない。
唯人は自分を持ち上げる龍治を見つめ返し、やがて口を開いた。
「龍治、俺、貴方がいつもより大きいように思えます」
「あ、あぁ…。俺は唯人が小さいんだと思うが…」
「そうですね、俺が小さいので相対的に貴方が大きく見えるんですよね」
「…だろうな」
「…ていうか、声も違いますね」
「どう聞いても、声変わり前だな」
「……縮んでますよね」
「そうだ、な」
「…何故?」
「分からねぇ…」
端から見れば冷静にすら見える二人の会話だが、その実内心は大混乱である。
だって、普通そうだ。朝起きてみたら躰が幼児化しているなんて、通常の人間なら一生体験する事はないだろう有り得ない事態なのだから。
「…龍治、今の俺はいくつくらいに見えますか?」
「5歳か6歳ってトコだろう」
「ざっと10歳程若返っているって事ですか…」
龍治に持ち上げられたまま、がっくりとうなだれる唯人。
…昨日就寝した時の服装のまま、つまり龍治のシャツを羽織っていた状態のままだった為、ただでさえ大きい服がブカブカどころの騒ぎではないくらいになっている。膝上ワンピースを通り越して、最早その丈はローブだ。
裾から僅かに覗く足先がぷらぷらと所在なく揺らされた為、龍治はゆっくりとベッドに唯人を下ろす。
下ろされた唯人は、ふかふかの枕に頬を埋めて龍治を見上げた。
「…夢かもしれませんから、もう一回寝直すって選択肢は無しでしょうかね?」
「………」
唯人にしては、珍しく弱気な発言である。流石に幼児化は彼の許容範囲外らしい。
対する龍治は、その言葉に微かに眉を寄せる。
「…夢だとしたら、何もしねぇのはもったいねぇ気が…」
「龍治! 今の俺は小学生にも満たない年齢ですよ!? 犯罪です!」
身の危険を感じた唯人が、声を荒げて叫ぶ。…が、ボーイソプラノのその声色はただひたすらに可愛らしいだけだった。
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