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「朱くん、ちなみに何年生まれなの?」
「んーと…」
鈴に問われ、朱はフォークを口に銜えたまま考えるように宙を眺めた。
ややして申告されたのは、今から六年後の数字。
「…この子の言葉を信じるとすると、十年後から来たって事…?」
「うーむ…」
「……ていうかさ、一番最初に指摘するべき事忘れてねぇ?」
顔を見合わせて考え込む鈴と翡翠に、さっきから誰もツッコまない事に痺れを切らした御門が低く呟く。
何?、と言わんばかりに振り向く家族(暫定)に、頭の奥に鈍痛を覚える。
「男同士で子供って……有り得ねぇだろ!」
「あぁ…何だそんな事」
「そんな事!? そんな事で済まされる話なのか、それ!」
鈴があまりにも何でもなさそうに言ったので、反射的に叫んだ。どうしてそんなにも反応が薄いのか!?
熱り立つ御門に、鈴はひょいと肩をすくめた。
「だって、それは今でもやろうと思えば出来るもん」
「は…?」
「方法なんていくらでもあるでしょ? 一時的に性別転換薬を呑めば妊娠も出来るし、ホムンクルスの要領で遺伝子を掛け合わせればそれも必要ないし。だから子供が出来てるのは、そんな問題じゃないんだけど」
「………」
何でもないように言う内容ではない、と思うのは御門だけなのだろうか。
不安になって思わず傍らの孝雪を仰ぎ見れば、彼は苦笑いしてため息をついた。
「鈴君に僕らの常識は通用しない。…僕より御門の方が良く知ってるよね」
「あぁ…うん」
「諦めなさい」
説法する尼僧のような口調で窘められ、御門はがっくりとうなだれた。人工的な赤い髪に、透き通る白い手が落ちてくる。
…普段性悪な孝雪がこんなに優しいだなんて…、やはり天変地異の前触れか。人災はもう既に起こっているが。
その人災たる朱を頭を撫でつつ、鈴は興味深そうに呟く。
「それより僕は時渡りの術の方が気になるなぁ…。今まで出来るとは思ってなかったけど、朱くんが此処にいるなら十年後の僕には出来てるって事だ」
「おかーさんはすごいのです!」
「そっか、ふふ。これから研究するのが楽しみだなぁ…」
ふふ、と容姿に似合わない笑い声を漏らす鈴。どうやら狂魔学者(マッド・マジカリスト)のスイッチを入れてしまったらしい。…怖い。
室温が一気に下がった気がして、御門たちは思わず両腕を擦った。何でもない顔をしているのは、暫定家族の三人だけだ。
「…じゃあやっぱり未来から来た二人の子供、って事で結論付けるの?」
「鈴が不可能ではないと言うんなら、将来俺たちの間に子供が出来ていてもおかしくはないだろう」
椿が首を傾げると、翡翠が頷いた。…そんなもんでいいんだろうか?
椿の皿からトマトを取り除きながら(椿はトマトが苦手だ)、雅弥が訊く。
「でも、何で未来から二人の子供が来るのさ?」
「それは未来の僕の思い付きな可能性が高いかな」
「…十年後も鈴は鈴って事か…」
突拍子が無いというなら、現在でも十二分にそうだ。鈴が鈴である限り、その理由で納得がいってしまう。
「でさ、結局どーすんだ、この子」
「うーん、来れたんなら帰れると思うけど…」
「かえりもおかーさんがむかえにきてくれるのです! いっぱいあそんだら、おむかえなのです」
「あぁ、じゃあちゃんと帰れるんだね。良かった」
キチンと帰れる術はあるらしい。…まぁ、いくら未来の鈴でも自分の子供を帰れる保証もないのに過去へ送り出したりはしないだろう。
「では、朱は遊びに来た訳か」
「ですっ」
「そうか」
元気良く頷いた朱の頭を翡翠が撫でる。
その横でニコニコと様子を眺めていた鈴が、不意に立ち上がって宣言した。
「よしっ、じゃあみんなで遊ぼうっ!」
「……みんなで?」
「みんなで!」
えぇ?、と若干不服そうに呟いた御門の台詞も、元気な声で一蹴。
…反論を許さない無意識の強制に、彼らは諦めたようにため息をついた。
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