欲しいものは何ですか?
なんて事はない、いつもの<首無し>最奥の指定席。
…まぁ、本来ならこの場所は[Inferno]総長の利也と副長の久藤先輩の特等席で、「なんて事はない」なんていう言葉で流される場所じゃないんだけど…。一年弱くらいずっとこの場所に居座ってる俺たちにとっては、やっぱり「なんて事はない」いつもの日常風景なんだよな。
俺の隣が利也、向かいの席が唯人、その隣俺にとっての斜向かいが久藤先輩。それがいつものポジションだ。
「そういえば、龍治」
「…ん?」
唯人がコーヒーカップをテーブルに置きながら言い、片手にティーカップを持ったままもう片方の手で唯人の髪を梳いていた久藤先輩が顔をあげた。
…今日はこの二人、唯人がコーヒーで先輩が紅茶、といつもと飲んでる物が反対だ。どうでもいい気まぐれなんだろうけど。
唯人はカップを置いて自由になった手で先輩の手を掴んで、それは柔らかに微笑む。
「明日、誕生日ですよね」
「…あぁ…」
淡々と交すやりとりに、目を見張る。…何だって?
「えっ…?」
「あっ、そいやそうやな…」
それぞれ呟く、俺と利也。利也は知ってたみたいだけど、忘れてたっぽい。俺なんか初耳だけどね!
…などと、俺らが正面でリアクションしていようと、俺らは所詮外野だ。ガヤだ。唯人は華麗にスルーして先輩に言う。
「何か、欲しいものはありますか?」
「唯人」
即答だよ。コンマ一秒、一瞬の迷いすらない即答だよ。
唯人の問いにキッパリとそう答えた久藤先輩に、俺は心の中でツッコミを入れた。多分、隣で生温い目をしている利也も同じ事を思ってる筈だ。
コンチクショウ、このバカップルめ! いつも思ってるけど、唯人と久藤先輩の周囲を全く気にしないバカップルっぷりは恐ろしい。
ある種のお約束、但し端から聞いてるととんでもない回答を受けた唯人は流石、穏やかに笑っている。
「そういう事を訊いた訳じゃないのですが…」
「俺の欲しいものは唯人だ。別に間違ってない」
「間違ってるでしょう」
呆れたようにも聞こえる声色で、苦笑い。唯人は先輩の手を握ったまま、諭すように言う。
「俺は誕生日プレゼントとしてあげるものは何が良いか、と訊いているんですよ」
「だから唯人だ」
「くどいですね…」
熱烈な口説き文句ともとれる恋人の言葉を、くどいで一蹴。流石唯人、俺には到底真似出来ない。
唯人は若干呆れたようにため息をつく。
「大体、俺は最初から貴方のものですから。今更プレゼントするようなものではないでしょう」
「ぶっ…!」
臆面もなく言い放たれた台詞に、俺は思わず噴いた。飲み物を口に含んでいなくて、心底良かった!
…ていうかちょっと待て、唯人! お前今サラッと物凄い事言わなかったか!?
噴き出した俺になんか気付いてもいなさそうな久藤先輩が、満足げな男の顔で笑う。
「それもそうだったな」
「でしょう?」
でしょう、じゃねぇよ。そろそろ落ち着いて周り見てくれよ、バカップル。
…いつの間にか俺と利也だけではなく、店内中が二人の動向を気にしている。
あぁ、俺の知っている一年ちょっと前の他人の視線を苦手としていた唯人君は何処へ行ったんだ。ウィークポイントが減ったのはいいが、ちょっとは周りを気にしてくれ。
「…ですから、何か他のものを…」
「要らねぇよ、別に」
「ですが…」
「お前以外、欲しいものなんてない」
…熱烈ですよね、ホントにー。…激しくいたたまれないんですが、俺。
頭がズキズキしてきた俺の正面で、唯人が先輩以外の前では見せない頬を赤らめた乙女な顔で言う。
「……では、明日は龍治とずっと一緒にいますね」
「あぁ。…明日も、な」
「…はい、明日も」
俺から見ても可愛らしいくらいの笑顔の唯人と、此方も見惚れるくらいカッコいい顔をした久藤先輩。
…うん、美しい光景だね。景色だけなら、俺こういうの大好きよ。
でもね、
「……とりあえず帰ってやれや、オマエら……」
絞り出すような利也の台詞に、激しく同意、略して禿同。
勝手にやっていらっしゃい、バカップル!
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6月5日、龍治のお誕生日記念、という事で。周囲なんて気にしないね!、な強か過ぎるバカップルのお話をお届けしました(笑)
一応龍治が三年、唯人が二年の、本編から一年弱くらい進んだ時間軸の話です。ラブラブです(笑)
誕生日に二人っきりでイチャイチャ、というのは唯人の誕生日にやったので、今回は敢えて衆人監視の元でイチャつかせてみましたw
まさかの明良視点(笑) 憐れ、仔猫(爆)
そんな訳で、龍治誕生日おめでと企画でした!w
→09.6.5. 薄衣砂金
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