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今まで此方を見やしなかった漆黒の瞳が、真っ直ぐに俺を見据えていて。吸い込まれそうな程深い黒だ、などと感想が勝手に浮かぶ。
「…そんな風にジッと見つめられてると、困る」
「は?」
無感情だった顔に僅かに困惑の色を宿しそう言った斎藤に、俺はまた間が抜けた声で応じた。
「ずっと見てただろう?」
「ん、あぁ…」
確かめるように訊かれ、俺は曖昧に頷いた。
…確かに、斎藤について色々考察する間、ずっと観察するよう眺めていたのは事実だ。ほぼ無意識だったが。
俺が頷くと、斎藤は微かに眉を寄せてまた困惑を示した。
「辻川にそんなに見られると、落ち着かない。…好きだと、言っただろう?」
「…言ったな」
あの日、斎藤は淡々と俺が好きだと言った。いや、正確には「好きな相手の為に何かしたい」と言った訳だが、その“何か”をしている相手は俺なのだ。
…あの日を境に、いつの間にか机の中に入れられていたルーズリーフは、斎藤から直接手渡されるようになっていた。けれど、その時に斎藤と言葉を交わす事はほとんどなく、今があの日以降初めてマトモにする会話だ。
「…ていうか、そもそも“好き”ってどういう意味で“好き”なんだよ…?」
いい機会なので、疑問に思っていた事を訊いてしまう事にする。
友愛か、親愛か、…それとも先程考えて却下した恋愛か。それによって、俺が今後取るべき対応も変わってくる、だろう。
(…ん?)
自分の思考の違和感に疑問を覚えた刹那、僅かに頬を染めた斎藤が口を開く。
「…色恋という意味で、“好き”だ」
「…え…」
有り得ない、と一度思った言葉。けれど、いつも無表情な斎藤が頬を赤くして告げる様に、それが嘘ではないと知れる。
「…辻川が好きだ。……でも、これは俺の一方的な想いだから、辻川は気にしなくていい。忘れてくれ」
「は…」
そう言った斎藤はふる、と一度首を振ると唇を引き結び、また手元の文庫本に視線を落としてしまう。が、その黒の瞳は全くページを追っておらず、色白のその頬は赤い。
…え…いやこれ……、俺はどうするべきなんだよ? 忘れるとかムリなんですけど……。
…言ってしまおう。可愛い。…男相手にどうかしてると思われるかも知れないが、俺を好きだと言った今の斎藤は何故かめちゃくちゃ可愛かった。
ジッと、それこそ穴が開く程斎藤を見詰めていると、此方を意識しているらしい斎藤の細い躰が強張る。顔なんてもう耳まで真っ赤だ。
「……なぁ、斎藤」
「っ…! …何、辻川…」
ロクに集中しちゃいないだろう本から視線を上げず、声だけで応える斎藤。
これは、何と言うかやっぱり…、
「照れてんの?」
「…ッ!」
もう充分赤いってのに、そう訊いた途端耳まで真っ赤に染まる。
…何これ、何こいつ。超可愛いんですけど。
俺の中の斎藤千春という存在に対する興味が、むくむくと大きくなっていくのが分かる。
同性に恋情を寄せられているというのに、嫌悪感は全く無く、寧ろ湧いてきたのは相手への興味。
それってもしかして、もうそういう事なのかもしれないけど。
「…斎藤」
「…何」
「いつもありがとな」
斎藤が取ってくれたノートを指で弾き、自分なりのとっておきの笑顔を浮かべて言ってやる。
途端に茹で蛸みたいになる斎藤は、やっぱり可愛い。
「…別にっ、これは自己満足だから…」
「じゃ、俺も自己満で礼言うわ」
…隣の席の男、斎藤千春は可愛い。それが、俺が悩んだ末に得た答えだ。
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半年経って、ルーズリーフの続編です。
前回名前が出なかった千春の可愛いトコや、前回全く攻めっぽくなかった旭の攻めるトコを出そうと頑張りました。……でも付き合うトコまでいかなかったなι もう旭が好きって言っちゃえば付き合うような気がするんだが… ←
いつも先輩と後輩ばっかり書いてるけど、フツーの同級生ってのも可愛くていいと思いますv 学生万歳(笑)
10/7/4
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