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「電車通学なの?」
「あ、いつもはチャリなんですけど。雨降った時だけ電車で」
「あぁ、…それで、こないだは傘パクられちゃったんだ」
「そうですねー…。…でも、あの時は助かりました」
「どう致しまして。風邪は引かなかった?」
「お陰様で」
にこにこと笑う高校生は、この前も思った通りに擦れの無い笑顔で好感が持てる。
可愛いなぁ、こんな弟が欲しかった。
つられて俺も微笑みながら彼を見返すと、ふと彼は思い出したように俺を見つめた。
「あ、あの……」
「ん?」
「名前、お名前教えて貰ってもいいですか?」
戸惑いがちな仕草で訊かれて、そう言えば名乗ってなかったな、と思い出す。
ついでに俺も彼の名前を知らない。表札の名字は盗み見たけれど。
「高町博仁(たかまち ひろひと)。大学二回生」
「高町…さん」
「君の名前は?」
反芻するように俺の名前を唇に載せた少年が、何だかくすぐったい。
笑みを浮かべたまま聞き返すと、ハッとしたように彼は居住まいを正した。
「三浦麻貴(みうら あさき)です。二年生…です」
「アサキくん、か」
少年、改めアサキくんは、俺が下の名前を呼ぶとぱちりと瞳を瞬かせた。
きょとんとしたようなチョコレート色の瞳が、此方を見上げる。
「あ、嫌だった?」
「い、いえ、そんな事はないですけど…」
「綺麗な音だよね、アサキくん。いい名前だ」
「うぇっ? あ、ありがとうございます…」
思った通りにストレートに褒めると、純真らしい高校生は微かに頬を染めて頭を下げた。
うん、可愛い可愛い。
頷きながら俺はアイスコーヒーに口を付け、あわあわとした様子のアサキくんを見て癒された。
俺の周りにこういうタイプは居ないから、ついつい構いたくなるなぁ。元々歳下の子は好きだし。もちろん、恋愛的な意味ではなく、子供が好きって意味だ。
甘そうなカフェオレを口に含み、遠慮したようなチョコレートの瞳が俺を見上げる。
「あの、誘っておいて何ですけど、高町さん何か用事とかなかったですか?」
「今日の講義はもう終わりだから。バイトも無いし、暇だからアサキくんが気にする事ないよ」
そう答えると、ほっとしたように息を吐くアサキくん。
そう言うアサキくんの方こそ、何か用事とかは無かったのかね?
「あ、ちょっと…、明日の小テストの勉強して行こうかな、って思ってましたけど」
訊いてみると、そう返ってきた答え。
隣の席に置いた鞄をちらちらと見下ろすアサキくんに、俺は笑顔で手のひらを見せた。
「良かったら、勉強みようか?」
「えっ、いいんですか?」
「まぁ、出来るか出来ないかは科目によるけど」
一応教職希望なので。
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