short
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「…依月が、」
「依月が?」
訊き返すと、惣は僅かに逡巡するように視線をさまよわせ、やがて口を開く。
「…どうやら、俺は、依月が好きらしい」
「……うん? ん? ……んん??」
迷った割には、口に出せば案外ハキハキと。
約二十年の付き合いのある親友の突然のカミングアウトに、俺はその言葉を咀嚼するまで暫しの時間がかかった。
好き? 惣が、依月を? ……うん。俺も、惣や依月のことは好きだよ? もちろん、友情的な意味合いで。……でも、友情的な意味でなら、惣がここまで言いにくそうにする事ないよなぁ?
…………。
「……それは、友情的じゃない意味で?」
「……、友情、ではないな。もう」
もう。えーと、それはつまり、かつては友情の枠であったと言えるけど、今はもうその枠組みに当てはめる事は出来ないという、意味ですかね。
「……えーと、つまりノット友情で、例えば恋愛的な意味で……とか?」
「……恋愛的、かつ色情的に、だな。例えば、そのAVに映っている事をしたいという意味も含めて」
ドモりながら訊く俺に、表面上淡々と応える惣が示すテレビの画面では、先程どことなく依月と雰囲気が似ているなと思った女優が艶めかしく喘いでいて……って、おい!?
「ちょっ、お、あ……えぇぇぇ!!?」
ちょっ、惣ってソッチの人だったっけ!? いやいや、高校時代は普通に彼女居たよな、半年くらいで別れてたけど。…え、何、つまり両刀的な!?
二十年来の親友の唐突なカミングアウトに、軽くパニックに陥る俺。……そのBGMがAVの喘ぎ声だってのが間抜けなもんだが、その時の俺にはそんな事を気にしている余裕はなかった。
「えぇぇ、ちょ、おま……マジで?」
俺の反応を無表情……否、微かに眉を寄せた気持ち不安げで見つめている惣に、声を上擦らせながら訊き返す。
「……俺が冗談でこんな事言うと思うか?」
「思わない。思う訳ねぇよ、まじか……マジなんだな……」
「…マジだよ。本気だ」
本気だ。と呟いた声の低さを、今更疑ったりはしない。
突然の衝撃告白に頭が付いていかなかったが、表向き冷静に見える惣の様子を見て俺の方も次第にクールダウンしてくる。
……当然、秘蔵AV鑑賞などしていられる空気ではなく、俺は緩く首を振って付けっぱなしだったテレビを消した。さっきから喘ぎ声が思考をぶち壊すんだもんよ。
静かになった部屋の中で、俺は気付け代わりにコップに残った炭酸を一気に飲み干した。…多少咽せそうになったが、なんとか堪えて惣に向き直る。
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