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(えっ、え…!? 何で!? 俺なんかじゃ、お礼を言うのすら恐れ多過ぎた!?)
若干不機嫌になったように見える安岐に、祈は額に冷や汗を垂らし、内心で慌てる。
わたわたする祈に近付いてきた安岐は、無言でひょいとその躰を荷物のように軽々と持ち上げた。
「!? えっ、え!?」
「…暴れるな」
「!? はいっ!」
戸惑ってもがくように足をばたつかせていた祈は、低く落とされた声にビクリと身を揺らして抵抗を止めた。
安岐に抱き上げられる形になっている祈は、先ほど見たウッドテーブルのセットに運び込まれた。…一つしかない椅子に下ろされ、正面から安岐が顔を覗き込む。
「あ、あの…、…っえぇぇ!!?」
全く意図が掴めない安岐に何事かを訊ねようとしたが、次の瞬間の彼の頓狂な行動に思わず声を荒げた。
椅子の背もたれに祈を押し付けた安岐は、唐突に祈の制服のシャツに手を入れると、腹の部分をペロリと捲ったのだ。
外気に触れてすうすうする素肌に、祈は訳も分からず真っ赤になる。
「ちょ、い、いきなり何っ…!?」
「…手負いだったのか」
「へぁ!? …ちょ、ひゃっ!」
ペロリと出された腹には、先ほど追っ手から逃げる前に一発だけいれられた拳の痣が浮かんでいる。
それを指先で軽く突き、安岐が呟く。くすぐったいような痛いような感触に、思わず祈の口から漏れる上擦った声。
「コラァ! チビガキどこ行っ……た…」
「居たかっ! …!?」
ある意味とんでもないタイミングで、追っ手のゴツい生徒たちが温室に飛び込んでくる。
怒気殺気を迸らせていた彼らは、けれど目の前の光景を見て声を失う。
今の光景。祈が椅子に押し付けられ、北条安岐に制服を捲られいるという場面を。
…暫し流れる、沈黙。温室の入り口で揃って蹈鞴を踏む追っ手たちを、ゆっくりと顔を上げた安岐の視線が射る。
「ほっ、北条安岐…!」
「な、何で…!?」
「お、お前…、まさか北条のオンナ…!?」
「や、やべぇ、逃げるぞ!」
(ちょ、お、え、えぇ!?)
安岐と目が合い、一様に血の気を引かせた追っ手たちは、一目散に逃げ出してしまった。
目を白黒とさせる祈を余所に、彼らの背を見送った安岐が呟く。
「…アイツらにやられたのか」
「え、あ…。…って、ちょ、いいんですか!? 今絶対、色んな意味であらぬ誤解をされましたよ!?」
顔色が赤くなって青くなった祈が、錯乱気味に叫ぶ。
いや、確かにこの姿勢は色々と可笑しいけれど! 断じて、そんな事はない!!
追っ手たちが呟いた中に有り得ない台詞を聞いてしまった祈は、バタバタとなんとか暴れて彼の手から抜け出そうとする。
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