short
5
古代では吉兆と云われた白い鱗に、紅い瞳。現代でも貴重なその色合いは、紛れもなく春氷の愛娘、ミズチ。
ちょうど暁から10m程向こうで草むらの中から顔を出している白蛇に、暁はホッと息を吐き出した。
良かった、これで春氷の愁いも晴れるだろう。
しかし、ミズチを捕まえようと歩を進めると、白蛇は威嚇するように首を伸ばした。開いた口から、小さいが鋭い牙が覗く。
…警戒、されているのだろうか。
「…此処に春氷が居ないから、怯えているのか?」
思わず白蛇から5m程の地点で足を止め、そう呟く。
毒は無いという話だが、噛み付かれてしまうのは嫌だ。…それに、それが原因で取り逃し、春氷を悲しませてしまうのも。
暁は困ったように頭を掻きながら、口を開く。
「…まぁ、俺に警戒をするのは仕方ないが……春氷が心配していたぞ」
爬虫類相手に何を語りかけているのだ、と自分で自分に突っ込みたくなったが、白蛇の頭がピクリと震えた気がして言葉を続けた。
「俺はアイツの沈んだ顔は見たくないんだ。…お前だってそうだろう? …別に俺に捕獲されなくてもいい、ただ少し其処で待っていてくれ」
ミズチが春氷に懐いているらしいのは、その様子を垣間見ただけだが分かる。
暁の出した春氷の名前にどれだけ効果があったのか、…それ以前に人間の言葉が通じているかすら怪しいが、けれどミズチは草むらから顔を出したままとりあえず逃げる様子はなかった。
軽く息を吐いてミズチを見据えたまま携帯電話を取り出し、春氷に電話しようとして……彼の番号を知らない事に気付いて地味に凹んだ。
暁はゆるゆる首を振り、代わりに静の番号を呼び出す。
『…もしもし?』
「もしもし、見付けたぞ」
『えっ、会長様がですか? 春氷には教えました!?』
「…教えてやりたいのは山々だが、番号を知らない」
『はぁ!? このヘタレ!!』
「言うな……凹んでるんだ」
静の遠慮のない罵声に、本気で沈んだ声で返す。
一緒に居る事も増えて機会などいくらでもあっただろうに、未だ番号一つ知らない自分は、確かに彼の言う通りヘタレそのものだろう。
『…まぁ、春氷には僕から連絡しておきますよ。場所は?』
「別れた場所からそう遠くない、50m程進んだ辺りか」
『分かりました、春氷と合流して向かいます』
電話を切ると、じっと此方を見ているミズチと目が合う。
円らな紅の瞳は、案外可愛らしくも感じた。
「――ミズチ!!」
暫しして、息を弾ませた春氷が此方へ走ってきた。
飼い主の姿を見とめたミズチは、嬉しそうに彼に駆け寄って(実際は地面を這ってだが)行く。
心配したんだぞー、と感動の母子再会(?)を果たした春氷は、白蛇をぎゅっと抱き締めると、くるくると瞬く瞳で暁を見上げた。
「会長っ、ありがとうございます!」
野花が咲くような、晴れやかなその素朴な笑顔がイヤに眩しいのは、そういう理由か。
春氷の後ろから、物言いたげな静の視線を感じながら、暁は言葉を選んだ。
「いや……、お前が笑顔に戻って、良かった」
「はいっ、ありがとうございます!」
春氷は笑顔で頷き、静は何とも言えない顔をする。
なら何て言えば良かった、などと考える暁の前途は、まだまだ多難な気もした。
(とりあえず、アドレス訊いといたらどうですか、会長様)
(…いや、タイミングが…)
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これまた時間がかかって一区切りな、傍観者シリーズです(^^;) サブタイをせーちゃんまじ男前編(笑) そして暁はヘタレ攻めである事が判明ww
以前「春氷とはぐれちゃった愛娘のご機嫌取りをする会長様」、というネタを提供頂き、それをモチーフに書かせて頂きましたw ご機嫌取り…? ← 寧ろせーちゃんのご機嫌を取ってる気もww
うーん、このカプもなかなかくっ付く気がしないなぁ…w
11/6/27
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