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「…しっかし、他には誰に押し付けるかなぁ…」
「押し付けるって…、身も蓋もないね」
「事実だしー。…まぁ佐上にも一掴み押し付けるとして、…でもそもそも同室だからお茶とかはほぼ共同だしなー」
「……、あぁ、あの転校生クンね」


クッキーをぽりぽり囓りながら言う春氷に、静は僅かに表情を歪めながら応える。

そんな従兄弟の様子に気付かない程鈍くはない春氷は、ひょいと肩をすくめた。


「…まぁ、佐上も基本的には悪いヤツじゃないんだよ。ただこの学園の人と比べたら、ちょっと異質だけどね」
「…誰もが春氷みたいに流せる人間だったら、僕も苦労はしないんだけどね…」


クッキーをぽりぽりと言わせながら適当に同室者をフォローした春氷に、静がため息を吐いた。

生徒会親衛隊、と言えど静自身は生徒会役員たちを恋愛の目で見ている訳ではない。静は恋人がいるし、彼らはあくまで尊敬と憧憬の対象だ。

…が、隊員たちの中には役員に本気で恋慕を寄せている者もいるし、恋愛でなくとも、敬愛する相手に馴れ馴れしくする編入生を気に食わないと思う者はいる。

そう言った者たちの暴走を抑えるのが親衛隊隊長の静の役目ではあるが、何分生徒会親衛隊は隊員が多い。制御しきれない部分は多く、静の頭を悩ませるばかりだ。


(…お陰であの人と顔を合わせる機会が多いけど……理由が理由なだけに素直に喜べない…)


紅茶を啜りながら、静はゆるゆると首を振った。


「そうだ、せーちゃん、イインチョさんとは上手くいってるの?」
「…ふぐっ!?」


同じく紅茶を啜りながらのほほんと絶妙なタイミングで言った春氷に、静は思わず口に含んでいた紅茶を吹くところだった。

すんでのところで堪えたが、ばっちり気管に入って咽せ込む。


「げほっ、げほっ…」
「大丈夫?」


動揺させた張本人の春氷は呑気に問い、静は親衛隊幹部の一人が差し出したハンカチを受け取って口元を拭った。


「けほ、っ…平気…。春氷キミタイミング良すぎ…」
「は?」


ちょうど彼の事を考えていた時にタイミング良く彼の名を出されてしまって、思わず酷く動揺してしまった。

他の親衛隊幹部たちは苦笑いしている。

イインチョさん、と春氷が呼ぶのはこの学園の風紀委員長。静の恋人。


「…せーちゃんもイインチョさんも忙しそうだもんね、会えなくて寂しいんじゃない?」
「…いや、顔を合わせる機会は多いよ。仕事関係がほとんどだけど」
「ふーん。色気ないなぁ…」


あくまで他人事に呟く春氷に、静はため息を吐いた。


「色気云々とか、春氷が言えた事じゃないでしょ。…せめて好きな人を作ってからに言いなさい」
「えー…?」


色気より食い気な春氷。今もさっきからずっとクッキーは手放していない。

そもそも春氷の優先順位は、ペット(動物)>人間な感があるのだ。色恋云々を、彼に語って欲しくない。


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あきゅろす。
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