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傍観者と親衛隊
百瀬春氷は、当人の自覚があるのかないのかは限りなく怪しいが、編入生共々生徒会に近しい一般生徒である。…少なくとも、端から見る分には。
けれど、彼には本来ある筈の生徒会親衛隊による制裁…という名の陰湿なイジメは今のところ一切ない。呼び出し等も、ない。
その理由は、案外単純だ。
「こんちわー、せーちゃんいますかー?」
「…ハルヒ、ドアから入ってきなさい」
生徒会親衛隊幹部部室、という通称のあるこの多目的教室に非常識にも窓から入ってきたのは、件の百瀬春氷。
注意したにも関わらず全く悪びれた素振りを見せない彼に、生徒会親衛隊総隊長の肩書きを持つ藤原静(ふじわら せい)はため息を吐く。
「せーちゃんホラ、この前実家から送ってきたお茶っ葉持って来た。お茶にしよう」
「伯母様が英国で買った、っていう?」
「うん。…あっ、ついでにクッキーもパクってきたから」
「ん。まぁ、座ってなよ」
春氷は手にしていた袋を静に渡すと、促されたテーブルに当たり前のように腰を下ろす。副隊長以下他の幹部たちにも、彼の行動を咎める者はいない。
…百瀬春氷と藤原静は従兄弟同士で、大変仲が良い。また、親衛隊に遊びに来る際に様々な手土産を持参する春氷は、他の幹部たちからの評判も良い。
百瀬春氷は親衛隊と親しい。だからこそ、制裁を受ける事もないのである。
「…母さんったら飲み切れもしないのに片っ端から買ってくるんだからさ、全く困っちゃうよね。ダンボール一箱分、どうやって消費しろって?」
幹部の一人が給湯室で淹れてくれた自ら持参した紅茶に口を付けつつ、春氷はぶちぶちと呟いた。
先月イギリスに旅行に行った母親は、お土産として両手で抱えるようなダンボールいっぱいに紅茶の葉を送って寄越したのだ。
春氷も紅茶は好きだ。…が、好きにも限度と言うものがある。
というか、元々が一人で消費出来るような量ではない。肉類なら話は別だが、紅茶では白蛇のミズチを始めとした彼のペットたちの餌にもならない。
完全に母の土産を持て余した春氷は、とりあえず片っ端からのお裾分け戦法に出た。手始めに頭数が多く消費する量も多い、親衛隊の面々から。
「伯母様は色々と極端だからね…。お裾分けなら、僕らは喜んで頂くけど」
「ありがとうせーちゃん! 助かる!」
袋にゴロゴロと入れられた紅茶の葉の缶を見て苦笑いした静は、けれどどれも一級品であるそれらを快く受け取った。これだけの量があれば、暫くは親衛隊のお茶会も潤いそうだ。
パチンと手を合わせ自分を拝む従兄弟に笑いながら、同じく春氷が持参したクッキーを囓る。
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