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傍観者と愛娘

突然だが、私立桜苑(おうえん)学園は山の中の無駄に有り余った敷地を最大限に使った、一貫教育の全寮制男子校だ。整った設備や高い偏差値で、良家の子息たちが多く通う、所謂名門校である。

そんな学園に初等部から通う、百瀬(ももせ)春氷の実家が、国内シェアの大半を占めるペットショップ、及びペット用品メーカーであるという事は、案外知っている人間は少ないのだが。


「…ふむ、本日も賑やかで平和なり…」
「…なんだその口調」


今日も今日とて、食事時。

春氷の同室者で編入生、台風の目の佐上由貴は男子高生とは思えない程料理が上手く、週に幾度かは食堂ではなく弁当を作って持参している。

始めは自分と同室者の春氷だけに作っていたそれだが、そんな事を由貴ラブな生徒会メンバー(マイナスワン)たちが許す筈も無く。
計七人分という、小学校の運動会の家族弁当のような重箱が賑やかな集団の中心に置かれるのが定番と化している、今日この頃である。

せっかくの弁当、天気が良いから外で食べようと可愛らしい提案をしたのは由貴だった。諸手を上げ賛同した者が大勢いたのは、言うまでもない。

今日もいつも通り賑やかな集団を眺めつつ、春氷は鶏の唐揚げをもぐもぐと咀嚼した。
その隣にはお握りにかぶりつく生徒会長、間宮暁。いつもの光景だ。


「…毎日毎日、飽きないモンですね」
「…まったくだな」


おかず一つを巡り、幼稚園児レベルの争いを繰り広げる美形たちがこの学園のトップ集団だと、果たして誰が信じるだろう。
…此処が特殊な学園でなければ、誰も信じないのであろうが。

まぁ、そんな事など我関せずの春氷は、ちゃっかりしっかり紙皿にキープしてきた唐揚げをもう一つ箸で摘んだ。
口元に運ぼうとし、襟元からにょろりと顔を出した影にぱちりと目を瞬かせる。


「…どーしたミズチ、お前も欲しいかー?」
「………、何だそれは」


暁が眉を寄せたのも無理はない。人によっては、悲鳴を上げ飛び退いたかもしれない。

春氷の襟元から顔を出しているのは、真っ白な蛇だった。…白蛇は古来より縁起が良い生き物とされているが、それが昼食時に隣に座った人間の制服の襟元から出て来たら……かなり異常な光景だ。

けれど春氷は、暁のかなり控えめなリアクションにも不満げだ。


「それだなんて失礼な、ウチの愛娘を〜。こんなに美人なのに」


つんつん、と春氷が白蛇の鼻先(と言っていいのかどうか)をつつくと、応えるようにすりすりと頬に擦り寄る。

春氷は嬉しげだが、暁は爬虫類の鱗の感触を想像してまた眉を寄せた。


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