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「決まったよー、押していい?」
「ボタン押したいんだろ? いいぞ」
「やったー」


楽しげな今井が席の隅にあったボタンを押すと、店内にピンポーンと音が響いた。

近くの席を巡回していた稜平が再びやって来て、注文を取る為の機械を開く。


「ん、ご注文お伺いします」
「俺はプリンパフェとミルクティー」
「俺も同じー」
「じゃあこのパンケーキと、…飲み物はコーヒーでいいや」
「俺はこっちのチョコのパフェとコーラな」
「かしこまりました。ご注文を繰り返します……」


機械的に彼らの注文を繰り返した稜平は、彼らの席を離れる前にそっと満朔の手に何かを握らせた。


「稜平?」
「ドリンク券。他の店員にはナイショな?」


きょとんとする満朔に顔を近付けてそう囁くと、稜平はニッと口元に悪戯な笑みを浮かべてから仕事に戻って行った。

耳元をくすぐった吐息混じりの囁き声にほんの少し頬を赤らめた満朔に、その様子を見ていた三バカが詰め寄る。


「なになに、稜平何だって?」
「何かくれたのー?」
「てか今の側で見ててもちょっと怪しかったけど……、いやまぁいいや」


耳元にまだ稜平の声の余韻の残る満朔はふるふると首を振ってそれを散らすと、手の中に握らされた薄っぺらな紙を開いた。


「ん、ドリンク券だってさ」


これがあると、セットのドリンク代分が無料になるらしい。値段にするとたかが百数円だが、稼ぎの少ない高校生にはこれだけでも大分ありがたい。


「おっ、やったー」
「稜平のくせに、やるじゃん」
「あ、でも他の店員さんにはナイショだって」
「レジで、最初から持ってたって顔して使えってか」


ドリンク券を手に持ったまま満朔が仕事に戻った稜平の姿を目で追うと、此方からの視線に気付いたのか稜平が振り返ってこっそりと満朔に向かってウィンクする。

気障ったらしい仕草だが、容姿が良い稜平には嫌味な程良く似合っていた。満朔は思わず頬が赤くなるのを感じながら、なんと言っていいかも分からぬまま口を開く。


「…ばーか」
「えっ?」
「稜平に言った」


口を開いて出た悪態に、既に別の話題に移っていた三バカがきょとんと目を見張った。

照れているようなふてくされているような、何とも言えない表情をした満朔に、彼らは顔を見合わせる。


「……上浦さぁ……」
「何?」
「いや……、うん、何でもないや」


何かを言いかけて止めた木村に首を傾げると、田原と今井も満朔を見て何とも言い難い表情をした。


(稜平のこと、好き過ぎでしょ)


なんて、彼の言いかけた言葉は、水と共に飲み下す。


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あきゅろす。
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