short
3
「……僕の中身なんて、ヘンリーにはどうだっていいのかな」
「…?」
アリアがゆるりと瞳を瞬かせる。
セインの存在を所有したいと囁いたヘンリーは、セイン自身の意思や感情など、どうでも良いと思っているのだろうか。
ヘンリーは自らの気持ちを口にしなかったし、セインからも言葉は求めなかった。その事が、ずっとセインの心の中に引っかかっている。
そんな込み入った内情までは話を聞いていないアリアは首を傾げ、訊いてもセインは話さないだろうと判断したのかゆるゆると首を振った。
「…出来た薬の残り、あげるから。頑張って」
「……、ありがとう。これ、何だっけ?」
「気付け薬」
「……」
それをどうしろと言うのか。
渡された瓶を見ながら、セインは何とも言えなかった。
セインに渡されたものとは別に、もう一つ瓶に入れられた薬は評価用に教師に提出する。瓶の蓋をしたアリアは、それに名前を書いたタグを付けて回ってきた提出用のボックスに入れた。
薬湯学の授業を終え、次は風クラスの必修授業があるというアリアとは教室を出た所で別れた。対するセインは、次のコマは空き時間だ。どうやって時間を潰そうか。
「…………」
以前ならば、こうした空き時間には穴を掘って、その中で本を読んだりとして過ごしていたけれど。
中庭や裏庭にそうやって穴を掘っていると、大抵ヘンリーに見付けられてしまう為、最近はそれを避けがちだった。会わなければ会わないだけ、次に会った時に気まずくなるだろうというのは分かっていたが、臆病なセインは逃げ回ってばかりだ。
それはともかく、ぽっかり開いてしまった時間はどうやって潰そうか。いつもやっている事を意図的に避けていると、やりたい事がなくて困ってしまう。
「図書館、はこの前行ったし……。そもそもあんまり読書にも集中出来ないからなぁ」
最近は本当に、ふとした拍子にヘンリーのことを思い出しては、言いようのない感情に支配されているから。
はぁ、と物憂げなため息を吐いたセインは、もう適当な空き教室で仮眠でもして時間を潰すかと決めて顔を上げる。
適当に廊下を歩き出した背後から、するりと伸びてくる腕。
「……捕まえた」
「――!」
耳元で甘く響く声は、もう聞き慣れてしまった相手の声で。
「少し久しぶりだね、セイン」
「…ヘンリー…」
此方の顔を覗き込む深蒼の瞳は、何も変わらない。
変わってしまったのは、何だろう。彼ではなく、セインの方なのだろうか。
13/12/24
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