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早く、腹を決めてしまえばいいのに。端から見ていればその感情は明らかなのに、彼は何を迷うのだろう。


「…はやく、好きだって言えばいいのに」
「はっ!?」


調合の終わった昔ながらの滋養薬を瓶に詰めながらアリアが呟くと、後片付けをしていたセインが高い声をあげた。

思わず手から滑り落ちた材料の入ってた袋は、幸いにも割れるような素材ではなかった為に助かったが。わたわたと慌てるセインを、アリアは呆れ気味の深緑の眼差しで見つめる。


「…好き、なんでしょ?」
「なっ、何が?」
「セイが、リーを」
「そ、そんな事ないっ!」


咄嗟にセインの張り上げた声は教室中に響き、実験も終わって片付けに入っていた生徒たちの視線が一斉に集まる。

頬が真っ赤になったセインと無表情のアリアに、生徒たちは当然状況が分からず首を傾げた。

周囲の視線を一身に受け固まってしまったセインと、ゆるりと首を振るアリア。生徒たちは訳が分からなかったが、やがて彼らから視線を外した。

はぁ、とアリアが息を吐く。セイン程ではないが、アリアも人と関わるのが苦手な人見知りなのだが。無駄に注目を集めるのは、あまり気分のいいものではない。

けれど、真っ赤になって俯くセインへの追及を緩める事はない。


「…好きじゃないの?」
「そ、そんな事……」
「じゃあ、嫌いなの?」
「違うけど……そうじゃなくて……」


しどろもどろに言葉を続けるセインに、アリアはため息を吐いた。

少し前に同じようにヘンリーが好きではないのかと訊いた時には、ただ戸惑うだけで今のように無理して否定しようとはしなかった。何か、心境の変化があったのだろうか。


「…どうして? この前と、反応が違う」
「……わかんない、んだよ」


顔を真っ赤にして俯くセインは、ため息混じりに吐き出す。


「もう、どうしたらいいのか、わかんない」


セインのすべてを貰うと、そう囁いたヘンリーの声には有無を言わせぬ強引さを感じた。

今はまだ、ほんの少しの猶予を与えられてはいるけれど。でも近いうちにタイムリミットがきた時。その時、ヘンリーはセインをどうするつもりなのだろうか。セインを、何だと思っているのだろうか。


「……、ヘンリーが何を思ってるのか、やっぱり分からないんだ」


セインが欲しいと言った、彼の本意。所有の欲求が剥き出しの言葉に、彼が本当に求めているのは何なのかセインには分からなくなる。

彼のことは、嫌いではない。それはハッキリ言えるけれど。けれど同時に、セインはヘンリーが怖い。


13/12/10

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あきゅろす。
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