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short
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まるで、長年連れ添った夫婦のような雰囲気だ。俺たちを称して、冗談めかしてクラスメイトたちがよく言う言葉だ。


「ナオさん、ナオさん」
「…ん」


前の席に座った相手が半身を捩って俺の名前を呼んだのに、俺は黙ってシャープペンの芯のケースを差し出した。0.3のF、少し珍しいこの芯を愛用しているのはクラスでも多分俺と相手だけだ。

にかっと八重歯を見せて笑った相手は、するりとケースから一本芯を取り出した。


「ありがとね」
「ん」


ケースを返して貰って元の通りにペンケースにしまいながら、俺はぼんやりと思う。シャー芯切らしたのか。帰りに買って行かせないとな。

ただ機械的に板書をするだけの日本史の授業が終わり、俺はチャイムと同時に席に座ったまま大きく伸びをした。パキ、と背中が小気味の良い音をたてる。


「…ヤオさん」
「ん?」


同じ仕草で伸びをしていた、前の席の相手――相島八尾(あいじま やお)こと通称ヤオさんに声をかけると、彼はいつもの人懐っこい笑みを浮かべたまま振り返った。


「帰り、外の文房具屋行かないと」
「だなー」


カラッと笑う彼が差し出したお菓子の袋に手を突っ込みつつ、俺はそう言った。

学用品を扱う売店は寮内にもあるのだが、あまり広くはない其処にはメジャーではない俺たち二人の愛用のシャープ芯は置いていないのだ。外出許可を貰って、外の店に買いに行かなくては。

ヤオさんのついでに、俺の分のストックも買い足しておこうかな。全部なくなった訳ではないが、残りはペンケースに入っている分だけだ。


「おとーさんおかーさん、外に買い物行くの? ならついでに買って来て欲しい物あるんだけど、頼んでいい?」


俺たちがそんな会話をしているのを耳に挟んだのか、近くにいたクラスメイトの一人がそう声をかけてくる。

おとーさんおかーさん、とは俺たちのクラスでのもっぱらのあだ名である。

一年半程前、俺たちがこの高校に入学したての時。教師にあるまじき面倒臭がり加減を発揮した担任は、クラスの出席番号一番と二番をクラス委員長と副委員長に指名し、その後のホームルームの司会を全てその二人に丸投げした。

その不運な二人、それが委員長に指名された出席番号一番だったヤオさんであり、副委員長に指名された出席番号二番の俺、赤羽奈央(あかはね なお)だった。
文句を言う間もなくその役割を押し付けられた俺たちは、それでもどちらも比較的面倒見のいい性格を発揮して案外しっかりと委員長副委員長を一年間務め上げてしまい……その後二年に上がってもクラスの圧倒的推薦で今もその職を続けていたりする。

委員長副委員長としてクラスメイトの面倒を見ているうちに、俺たちに付いたあだ名がおとーさんとおかーさん。器が大きくどーんと構えたような頼りがいのあるヤオさんがおとーさん、細かい事によく気の付くフォロー上手の俺がおかーさんなんだそうだ。初めて呼ばれた時はツッコミたくなったあだ名も、一年以上呼ばれ続けていれば慣れてしまうもので。


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