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「圭也が考え事なんて、ちょっと珍しいね」
「何だよ、俺が普段何も考えてないって言うのか?」


儚げに小さく笑ってみせる依月の言葉に、俺は唇を尖らせる。

寧ろ俺はいつも色々と考えてんだぞ。ムードメーカーにも色々あるのだ。まぁ、普段親友たちの前では割と考えずに振る舞っているのも事実だが。

俺にとっても、親友二人との空間は気を張らなくていい、どこまでも素でいられる大切な空間だ。三人組の関係が少しずつ解けていくのは、寂しい。だけどそれ以上に、親友たちの幸せも願っている訳で。


(……最終的にはどうなるのが、依月にとっては幸せなんだろうなぁ……)


依月に想いを寄せる惣のハッピーエンドは、依月と恋人になる恋愛エンドだろう。…本人はすっかり諦めてしまっているみたいだが。

けれど、依月にとっての一番は? このまま三人で、綻び始めたぬるま湯の親友関係を続けるのがハッピーエンド? それとも、惣からゆっくりと離れていくのか? ……それとも、


「……圭也?」
「…あっ、ごめん」


考え事をしているうちに、また黙り込んでしまっていたようだ。

会話の最中に考え事を再開した俺に、依月が少し心配そうに首を傾げる。…いや、俺の方が依月を心配したい訳だけれどね。


「……俺よりも、依月の方がさ」
「…え?」


此方を覗き込んでいた依月の表情が固まる。ほんの少し青ざめて見える表情に、俺も思わず気まずさに視線を逸らす。

…これやっぱり、絶対覚えてるんじゃないか? 何も覚えていないなら、昨日の話を振ったくらいでこんなリアクションは出てこない筈だ。


「あー…、二日酔いは大丈夫なのか?」
「あ、あぁ……うん。ちょっと怠いけど、大丈夫だよ」


そう思ってもやっぱり依月に直接そのものズバリを訊く事なんて出来なくて、俺はさっきも訊いた体調を気遣った。

表情を強ばらせていた依月も、俺の誤魔化しにほんの少し表情を緩めてさっきと同じ言葉を返す。

この反応はやっぱり覚えてそうだけど、触れて欲しくないってトコロだろう。……惣、フラグが絶望的に追い込まれていってるんだけど。

内心で頭を抱える俺を、一瞬もの言いたげに依月が眺めていたなんて知らず、俺はため息を吐いた。


「あー…、行こっか」


俺たちはいつの間にか廊下で立ち止まっていて、さっきから廊下を通る学生がやや迷惑そうに俺たちを避けて行っていた。

やや重い足取りを引きずって、俺たちはその場を離れた。

本当に、どうしよう。二人してその言葉を頭に思い浮かべていたなんて、知らないまま。


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