short
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* * *
三限。うちの科の必修科目である講義で、依月と会った。
教室の端にポツンと座る依月の隣の席の椅子を引くと、依月はその時になって俺に気付いたようでぼんやりと顔を上げた。
「おはよ、いつになくぼんやりさんだな」
「…おはよう、圭也」
三限だからもう昼過ぎな訳だが、今日初めてという事でおはようと挨拶。依月の声は、風邪の引き始めのように僅かに掠れていた。
俺自身が依月と何かあった訳でもないのに、その理由を知ってしまっているからか妙に気まずく感じてしまう。その気まずさを取り繕うように、俺はにっと笑顔を作った。
「また二日酔いか? 大丈夫?」
「…ん、ちょっと怠いけど、大丈夫だよ」
言いながら、はぁ、と憂いたっぷりのため息。
……なんとなく、さっきの惣の雰囲気に似てるんだが、気のせいか?
そう思うも、下手に藪をつついて地雷を踏み抜きたくはないので俺は黙ってノートを広げた。
隣の依月はいつもの呑み会明け以上に気怠そうだが、同じくノートを開いて講義を聞く体勢に入っている。
(いつも通り? いや……)
やっぱり少し、様子が違うような。
惣程どん底に落ち込んでいる訳ではないが、依月も何処か沈んでいる。二日酔いで体調が悪そうだとか、それだけじゃない。
(……まさか、マジで『覚えてる』?)
まさか。そう思うも、俺の直感はそれを否定しなかった。
けれど、直接それを口にして確認する訳にもいかず、俺は混乱しながらも隣の依月をちらちらと窺う事しか出来ない。
そのうち教授がやって来て講義が始まるも、俺はさっぱり話に集中出来なかった。
何とか機械的に板書を取り続ける90分を終えると、俺と依月は連れ立って教室を出る。が、互いに無言だ。
普段から依月はそれ程おしゃべりな方じゃないが、だからと言ってここまで無口な訳じゃない。やっぱり、全然いつも通りなんかじゃないぞ、惣……!
「……圭也?」
「ふぉっ!?」
俺が心の中で幼なじみにテレパシーを送っていると、黙り込んでいた依月が不意に口を開いた。
憂う瞳はそのままに、窺うように此方を見上げている。
「どうかしたの? さっきから無言だけど」
「えっ、ああー……ちょっと考え事しててな」
そうだ。依月からしてみれば、おしゃべりな俺が黙りこくっている方が不審なのだろう。
言われて俺はぱたぱたと手を振って何でもないと誤魔化す。
実際、俺自身は『なんでもない』。これは、惣と依月の問題なのだから。
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