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short
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沈む惣をとりあえず先に席に向かわせ、俺は二人分のざる蕎麦を取ってから戻った。

ざわざわと騒がしい昼時の学食は、周りの会話をいちいち聞いてる奴なんざいない。


「……、それで、依月はどうしたんだ」
「……今朝は、怠そうだがいつも通りだった。昨日の事は多分覚えてない、と思う」
「…そっか」


はぁ、とため息を吐く。それならひとまずは良かった。惣的には全然よろしくないし、例え覚えていないとしても依月的にも全くよくないだろうが。

俺はつるつると蕎麦を啜るが、惣は割り箸を割ったまま手を付けようとはしない。相当気が重そうだな。


「それで、依月が覚えてないとして、お前はどうすんの?」
「……、依月がいつも通りなら、俺もいつも通りでいたい。急によそよそしく接したりなんかしたら、依月も気にするだろうし」
「…出来るの?」
「……努力する」


なんか、息苦しいなぁ。

惣が一線を越えてしまった時点で完全に元の関係に戻るのは不可能だろうが、惣はどうにかして依月の為にも元の関係を繕いたいようだ。

二人に一番近い位置にいる俺としては、惣のその努力は息苦しく、そしてもどかしく感じる。

俺だって、今の俺たち三人の関係が崩れてしまうのは嫌だけど。けれど無理矢理今のままの形を保とうとしていたら、惣の気持ちはいつまで経っても前に進めない。

何とか背中を押してやりたいけど、この展開じゃな……。


「…、一回一線越えちゃってんのに、今まで以上に理性は保つのかよ?」
「……、なるべく、密室で二人きりは避けるようにする」


はぁ、とため息を吐いた惣がゆるりと重そうに首を振った。

この様子だと、もう一度何かの拍子に理性が振り切れたりしない限り、惣から行動を起こすつもりはないのだろう。

隠し切れない気持ちを押し込めたまま、何食わぬ顔で依月の隣に居続けるつもりなのか。

息苦しさともどかしさに、俺は思わず口を開いていた。


「もし、依月が昨日の事を覚えてたら、お前はどうするんだ?」


俺の言葉に惣は軽く瞳を見張り、ややしてからふっと口元だけで自嘲気味に笑った。


「それなら、依月の方が俺から離れるだろ」


諦めきった口調。瞳。

でもそれは、お前の意思じゃ、お前の行動じゃ、ないだろ?


「…お前が行動しなきゃ、何も変わらないよ」
「……、俺は、この関係を変えたい訳じゃないんだ」


嘘吐き。

喉元まで出かけた言葉は、蕎麦と一緒に飲み込んだ。


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