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short
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* * *



「どうした、惣。めっちゃ暗いぞ」
「……圭也か」


深夜呼び出しからのバイトをこなして、昨夜の酔いを引きずったまま家でささやかな仮眠をとって、昼飯は大学の学食で食べようかなんて登校した矢先に遭遇した親友は、妙にどんよりとしたオーラを纏っていた。

思わず引き気味に声をかけた俺に、振り返った惣の表情はいやに暗い。


「…ど、どうした? 元からルンルン気分とか程遠いキャラだけど、今日は異様に暗いぞ?」
「……」


戸惑いながらも精一杯冗談めかして訊いた俺に、惣はため息を一つ。何だよ、本格的に暗い。

成り行きで惣の隣に並びながら、俺たちは学食への道のりを歩く。惣の足取りは何処か重いが、俺はそれに合わせて少しだけゆっくりと歩いた。

暫し無言で歩き続けた惣だったが、やがて学食へ辿り着いて周囲が喧騒に包まれた瞬間に重々しく口を開く。


「……やらかした」
「へ?」
「昨日、夜」
「……え」


ボソッと呟かれた一言に、始めは何の事だか分からなかった俺も、ボソボソと付け足された言葉に察しが付いて目を見開いた。

昨夜の状況。惣の依月への感情。やらかした、という一言とどん底まで暗い惣の表情。

それらから導き出せる事情は、一つで。


――や、やっちまった……の?


「え、えぇぇぇ!? えっ、やらかしたってお前、何処から何処まで……!?」
「……、最後まで」
「ぶふぉっ!? ど、どうしてそうなった…!」
「……」


沈痛な面持ちで、それでも吐き出したいのか短い言葉で答える惣に、俺は吹き出しながらも冷や汗をかいた。

お、俺のせいか? 俺が昨日途中で帰ったりなんかしたから、惣の理性のストッパーが効かなくなったのか?

俺の表情を見て何を考えているのか分かったのか、惣が短く首を振る。


「…ストッパーが無かったのも事実だが、昨日は酔った依月が異様に積極的だったのもある…。だが一番は、俺の我慢の効かなさが悪いんだ……」


食券販売機の前に立ちながら、自己嫌悪に落ち込む惣。こ、ここまで惣がヘコんだ所なんて、二十年近い付き合いで初めて見たぞ…。

酔った依月は甘え癖が出る事があるから、昨日はそんな日だったのだろうか。あああ、俺もなんで二人置いてバイトなんかに行ったんだ!!

つられて落ち込む俺に、後ろに並んでいた見知らぬ学生がトントンと迷惑そうに肩を叩く。そうだ、券売機の前だった。後ろがつかえている。


「惣、飯食う気力ある?」
「……、どちらかと言えば、無い。成り行きで学食まで来たが」
「そっか。……でも何かは腹に入れとけよ。ざる蕎麦でいいか?」
「…何でもいい」


ため息を吐いた惣に、俺は券売機でざる蕎麦の食券を二枚買った。昨夜帰った事に対するせめてものお詫び……というか、俺自身の罪滅ぼしの為に俺はこの代金は奢る事にした。290円の詫びなんて、安過ぎるかもしれないが。


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あきゅろす。
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